ヨンとラオンが貶愚謝(ピョンウサ)を出たのは、西の空の果てに、紅い夕焼けが色濃く敷かれた後だった。貶愚謝(ピョンウサ)の近くにある愛蓮亭(エリョンジョン)へと来た時、遠くで黒い影が見え隠れしていた。ヨンの目が細められた。
「アイツ、ここまで来たか。」
「はい?誰ですか?」
ラオンは首を伸ばしてヨンの視線を追った。すると、彼女の目にも愛蓮亭(エリョンジョン)の傍を歩き回っている小さな影が見えた。
「あの人、誰ですか?」
「ミョンオン公主(コンジュ)だ。」
「うっ。」
無意識に、咄嗟に隠れ場所を探していると、ヨンがラオンの襟首をがっしりと掴んだ。
「お前、いつまで隠れて回るつもりだ?」
「では、どうしたらいいですか?こうして隠れでもしないと。ほかに方法がないじゃないですか。」
ヨンに襟首を捕まえられたラオンが、力のない声でべそをかいた。
「どうしたらいいのか教えてやろうか?」
「はい。教えてください(ネ、アルリョジュシプシオ)。」
「そう言うならばだ・・・・・。」
ラオンと目線を合わせたヨンが、小さな声で囁いた。それからしばらくした後、ラオンがまん丸い目を開いてヨンを見上げた。
「はい?絶対そのようにしなければいけなのですか?」
「そうだ(クレ)。そうせよ(クリヘラ)。」
「でも(ハオナ)・・・・そんなことできません。」
「せよと言っている(ハラニッカ)。」
「いくらなんでも・・・・・どうしてそんなことができると言うのですか。とんでもないことです。それで本当に公主(コンジュ)媽媽に恨みをしっかりと刻み込まれたらどうするのですか?ダメでしょう、最初から恨みを抱かれているのにどうするのですか?女人が恨みを抱くと、五月六月にも霜が降ると言われるのですよ。」
「霜を振らせることなどすでにしでかしたようだが?」
「口が十あっても言うことなどできません。」
「だからこそ、余計にそうせねば。」
「しかし(ハオナ)・・・・。」
「ならば、お前の考えは何だ?逃げ回ること、それがお前のできる一番の方法なのか?」
「目から遠のけば心も遠のくというもの。一時の間目に見えなければ、公主(コンジュ)媽媽もお諦めになられると思います。」
「お前のせいで生まれて初めて恋煩いをした子だ。お前のために、今朝は二時間以上も散歩をしていただろう。」
「どうして・・・・ご存じなのですか?」
「この宮殿で起きていることで私の知らないことがあるとでも思っていたのか?」
「・・・・・。」
その場にいずに、千里離れたところも見通せるという言葉は、どうにもこの人のための言葉のようだった。
「私が思うに、お前が逃げれば逃げる程、あの子は必死でお前を探すということだ。だから、私の言う通りにしなさい。」
「これは万が一という老婆心なのですが。そんなことをして、公主(コンジュ)媽媽が私に別の感情を抱いてしまったらどうしろとおっしゃるのですか?」
「・・・・・。」
ヨンは言葉なくラオンを見つめ、再び口を開いた。
「すでに宦官(ファングァン)になってしまったお前に、何かを期待するほど、ヨニは愚か者ではない。」
「あ、そうですよね。」
私、宦官だったわ。その事実に安心できる・・・・・状況じゃないじゃない!世子邸下(セジャチョハ)、ひどいんじゃないですか?人の痛みをそのようにチクチクと刺すなんて。
ラオンが無言の抗議を込めて、ヨンをじっと見た。
「何だ(ウェ)?何(ムォ)?」
本音をじっと見透かしているような視線でラオンに向かい合ったヨンが聞いた。
「何でもありません。」
ラオンは努めて、全く気にしていないように答えたが、声には不満が現れているのは仕方なかった。
「何をしているのだ。早く前に出て来なさい。」
ヨンがぐずぐずしているラオンの手首を掴み、ラオンの背中を押した。
「参りますよ(カムニダ)。参ります(カヨ)。」
しょぼんと頭を下げたラオンが、とぼとぼと歩き始めた。
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いつまで逃げ回るつもりなんだ??
お前のために二時間散歩してるような奴だ。
行ってやれ。そして俺の言ったとおりにしてやれ。
えええええ??
でも・・・これ以上恨まれたら・・一回殺されかけてんですよ!?私・・
↓(回想)
それよりもなによりも・・・
別の感情を持たれでもしたら・・・・!!!
うちのヨニはすでに宦官になったお前に想いを寄せる程愚かではない。
そうだろう?
ひ~~~ん。
行け。
・・・!!(目は口ほどにものを言う)
なんだ??
行け。