ラオンが心配していると、処世術の達人、チャン内官が胸を張って大口を叩いた。
「心配しないでください。私が誰ですか?なんと五年もこの東宮殿で耐えたチャン内官ですよ。これから私が言う通りにしなさい。」
「おっしゃってください。」
ラオンは悲壮な表情で袖を捲りあげた。
「まず、扉を開けて換気からしなければなりません。」
窓を開けたラオンが、チャン内官に聞いた。
「置物の位置もあらかじめ記憶しておいた方が良いですよね?」
定規で測ったように徹底していると言っていたのだから、置物の位置が少しでも違うといけないでしょう。しかし、どうしたことか、チャン内官は笑みを浮かべた顔で、頭を振った。
「そう言うと思いました。ここを掃除することを命ぜられた内官たちは皆そう考えるでしょう。部屋の中の者の位置を隅々まで記憶して、埃だけを払い落として、その場にそのまま置く。皆、そのように単純に考えるでしょう。」
「違うのですか?」
「もちろん違うでしょう。重要なことは・・物事の配置が理に沿って調和を成していなければいけないということです。」
「調和ですか?」
ラオンは訳が分からなくなった。ただ掃除をするだけなのに、理に沿って調和をなしてこそ、だなんて。どういう意味なのか分からなかった。
「さぁ、さぁ。詳しくは掃除しながら説明しましょう。一旦記憶しておくべきことは、世子邸下が寝所にお戻りになられる時間です。」
「まさか、時間によって物の位置が変わると言うことですか?」
「もちろん変わらなければ。朝に使うものと、夕方に使うものは違うのだから、当然ではないですか?」
考えてみればそうだ。
「念頭に置くべきことは、時間だけではないですよ。季節や天気も、気遣うべきですね。」
ようやく、彼の言う、道理と調和が何なのかを、少しは理解することができた。チャン内官の助言に、ラオンは頭を大きく頷かせた。彼女は、頭の中に留めておくように、世子の寝所を一つ一つ、隅々まで見渡し始めた。座布団の後ろに置かれた十長生(シプチャンセン:長生きを象徴する十種の物)の屏風はもちろん、部屋の中にあるすべての物が、互いに巧みに調和をなしていた。ところが・・・。
何かがちょっとおかしくない?
チャン内官をはじめ、他の宦官たちは確かに、世子邸下は徹頭徹尾な方だと言った。定規で測ったようにまっすぐで、宮殿の格式から少しでも外れれば、雷を落とす厳しい方だと言った。しかし、寝所のいたるところで、そんな完璧な方とは似合わない無秩序なところが目についた。寝所に染み付いている、ほのかな残像が、なんだかほかの人たちが言う世子の姿とは似合わないようだった。
あれこれと考えに陥っていたラオンは、文箱の下の埃を払った。その時だった。静かだった寝所の外が、急に騒がしくなった。すぐにぱたぱたと足の踏みつける音が聞こえてきた。画廊の向こうに消えて、全く見えなくなっていた女官たちと尚宮が戻って来た。彼らは、いつ席を外していたかというような平然とした顔で、その場を守って立った。温かかった空気が、急に厳しく締め付けてきた。
どうして急に?
「世子邸下が参られます。」
中笒(チュングム:縦笛のような楽器)の朗々とした響きが、ラオンの耳の中へと浸透してきた。
世子邸下?宮人たちの冥土の使者であり、この完璧な世界の主が参られるということよね?
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え~~!??
ラオンと世子、もう会っちゃうのかな?