府院君が笑いだすと、周りに座っていた男たちも一斉に笑った。笑い声は、土焼きの器を持った下人たちがサランチェに入ってきた後にようやく止まった。
「それは何だ?」
府院君は膳の上に土鍋を置いた行廊の一人に聞いた。
「鶏の水炊きでございますです。」
「鶏の水炊き?」
府院君は面食らった表情を浮かべた。自分は鶏の水炊きなど準備せよと命令をくだした覚えはなかった。
「ソン内官様の命だと、若い宦官がいっぱい取って来たんでございますよ。」
「若い宦官が?」
府院君は膳の上に置かれた土鍋を見下ろした。水炊きに用いられている鶏は、とりわけ肉が赤くて大きさも大きかった。艶がぎらぎらと流れる大きな鶏だ・・・・。あえてこれをどこから捕ってきた鶏かなどと聞く必要はなかった。清の使臣団のために、ようやく得ることのできた山鶏に他ならなかった。
「ほぅ、その若い内官は幸運にも何羽かは捕まえられたようだな。」
少し意外だとでも言いたげに独り言を言うと、行廊の者が何の話だとでも言うように首を傾げた。
「たった数羽などではないですよ?」
「数羽ではない?」
「はい。実に百羽捕えて来ましたんですよ。そのためもう大騒ぎなのなんのって。宮殿から来た熟手(スクス)たちが鶏を処理して水煮を作って、尋常の騒ぎじゃなかったんですよ。」
「何だと?」
府院君の顔から表情が消えた。
「う・・嘘をつくでない。」
慌てたソン内官が席から立ち上がると叫んだ。
「ひゃ、百羽だと?そいつが本当に百羽も捕ってきたと言うのか?」
「はい。そ・・そうでございます。」
ソン内官が急に怒り出したので、行廊は腰を下げて丁寧に答えた。
「ほ、本当か?お前が何か間違えているのではないのか?」
「拙い自分の二つの目で直接確認しましたですよ。裏山の山鶏で間違いございませんです。」
行廊が直接確認したと言うのならば、間違えているはずはなかった。
「あ・・ありえないこと・・・」
ソン内官の顔が真っ青になった。府院君から、その鶏がどれだけ貴重な品物だと聞いていなかったのか?しかし、そんなにも貴重な鶏を十羽でもなく百羽も捕まえるとは。百羽だとしたら、府院君が苦労して手に入れた鶏全部ということだった。
「ソン内官。」
府院君がソン内官を呼んだ。呼ばれた声がさっきとは違い、冷ややかな声が耐えられなかった。
「テ・・・大監(テガン)・・・・。」
ソン内官が慌てて床に頭をつけた。府院君が怒りと荒唐無稽さで歪んだ顔で彼をじっと見下ろした。
あの鶏がどんな鶏か・・、使節団をもてなすためにどれだけ苦労して求めた奴らか・・・・・。
土鍋の器に盛られた山鶏を見ながら、府院君はぐっと拳を握りしめた。なんと百羽もの山鶏。鶏があまりにも大きく、それを全部食べるには、宴会に出席した貴賓たちはもちろん、働く下人にまで器を回さなければならないありさまだった。これこそまさに、お粥を炊いて犬にやれというほどのありさまではないか。
「幼くて柔弱な奴なので、一羽捕まえられるかも分からないだと?はっはっは。」
突然、府院君キム・ジョスンが豪快に笑いを噴き出した。しかし、その笑い声に、ソン内官はがたがたと身体を激しく震わせて揺らせた。(ヤマナラシが揺れるように身体を震わせた)
「ははは。ソン内官。宮殿に、なかなか使えそうな子供が入ってきたようだな。」
「プ・・府院君(プウォングン)大監(テガン)」
府院君が参鶏湯(サムゲタン)をソン内官へと突きつけた。
「食べなさい。良い鶏で作られているのだ、旨いはずだ。」
「テ・・大監(テガン)。」
府院君は冷たい声でソン内官を促した。
「食べないというのか?」
ソン内官は真っ青な顔で器を受け取った。しかし、手が麻痺したかのように手が震えて汁が四方に飛び散った。その様子を冷たく見ていた府院君が突然顔中に満面の笑みを浮かべると、座中を振り返った。
「皆さん召し上がってください。貴重な材料で作った料理を冷ましたまま放置しておいてはダメでしょう?」
冷ややかな勧めに、人々は機嫌を伺いつつ、匙を持った。賑わっていた少し前とは違い、食事をしている間中、小さな咳一つ聞こえなかった。
重い寂寞が、ソン内官の首を絞めているように思えた。
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次の次、ヨンが出てきます(笑)もうちょいお待ちを・・(笑)
意地悪なソン内官。すっきりしました(笑)ちょっと可哀想にも思えちゃうけど・・( ゚ ▽ ゚ ;)