一.雲従街サンノム(中) | のあのあlife

のあのあlife

『雲が描いた月明かり(구르미 그린 달빛)』に史上最強にどハマリしてしまい♡2017年も自分の勉強兼ねて原作小説を翻訳しつつ、パク・ボゴム君とキム・ユジョンちゃんのボユカップル、密かに熱烈に応援中です~♡(笑)
2021年4月、またこのブログ再開します☆

けだるい午後の日差しが、重い肩の上に落ちた。

「ふぅ・・。全部終わった。」

ラオンは長く身体を伸ばして伸びをした。いつの間にか未時初(午後一時)を少し過ぎた時間。人々で賑わっていた煙草屋も、今はがらんとなった。ラオンはそろそろと席を片付け始めた。今日は少し早めに家に帰るつもりだった。

「今日はもうやめて帰ろうと思います。」

「もう帰るのか?」

「タニの薬がもうなくなったんです。」

癖のようににっこりと微笑むラオンに、ク爺が小袋を渡した。

「これを。」

「これは何ですか?」

「キム訳官邸から頂いた十両だ。」

「キム訳官邸からですか?」

「数日前にその御宅の長男の恋煩いを直してやったのではないか?」

「その日のことでしたら、もう十分なご配慮を頂きました。」

「その息子が、今回お前が取り持った娘と婚礼を挙げるのだ。もともと婚礼時は、重臣の者にしっかりと奢るのが道理だ。」

「よかった!」

まるで自分のことであるかのように喜んだラオンは、ク爺が差し出した小袋を受け取った。小袋の中の小判の重さよりも、婚礼まで続いた二人のどっしりとした縁の重さが、より嬉しかった。

「お前が結婚するわけでもないのに何がそんなに嬉しいのだ。」

ク爺はしきりに口元を横に長く伸ばすラオンに言った。

「そうですね。」

ク爺の文句にも、何がそんなに嬉しいのか、ラオンは顔からその笑みを消すことができなかった。水を吸った蕾が、顔いっぱいに満開に咲いたように広がった笑み。とても美しく、どこか悲しくもあるその笑顔に、ク爺は無駄に煙竹を強く吸って引くと、目を瞬かせた。どうして笑顔がこんなにも高潔なのか。その綺麗な色香がかえってあの子の足を引っ張るのではと不吉な予感が脳裏をかすめて通り過ぎた。その不吉な予感を飛ばしてしまおうとするかのように、ク爺はバンバン、机の角に煙竹を強く振り下ろした。

「クッパでもちょっと行くか。」

「そうしますか?そうでなくてもさっきからすごく腹の中で雷が鳴っています。」

「朝も食べてないのか?」

「最近精神をどこかへ売って置いてきちゃったのか、朝ご飯の炊く用に米櫃を開けたらガラガラで空っぽだったんですよ・・。はは。」

「この能天気な奴め。それがそんなに笑うことか。」

「そのようです。ははは。」

ク爺の憎まれ口にも、ラオンは澄んだ笑みで吹き出した。

「あいつの笑顔は・・。」

抑揚のない声で呟いたものの、ク爺のラオンへと向けた視線は、暖かかった。ラオンの口から直接聞いたことがなかったが、その暮らしが貧しいことは、うっすらと憶測できていた。

一日中声が枯れる程雲従街の人々の相談をしていたが、その子の稼ぎでは病んだ妹の薬代の支払いすら手一杯のようだ。聞くところによると、この間からは、あのがりがりに瘦せこけた身体で、雲従街の商人たちの雑多な雑用も引き受け始めたと言っているのだとか・・。あいつの金がなんだって、あんなにも幼い奴がそんなにもあくせくしなければならないというのだ。ラオンの困窮した生活にチッ、短く舌打ちしたク爺が、居酒屋にクッパ一杯を注文しようとした時だった。

「もし、サンノム。」

顎髭の長い中年が、ク爺の煙草屋の店の中に、あたふたと飛び込んだ。齋洞(チェドン)キム進士宅のチェ・マルムだった。心急く様子でチェ・マルムがいきなりラオンの腕からむんずと掴んだ。

「どうしたのですか?」

慌ててラオンが尋ねた。

「まず行こう。行きながら話す。」

息の上がっているチェ・マルムはラオンの手首を取るや否や、店の外へと走り出した。そうして、二人は瞬く間にク爺の視界の外に消えた。

「あの人、キム進士宅のチェ・マルムではないですか。」

新たに仕入れた煙草の葉を倉庫に入れたコクセが急に消えたチェ・マルムとラオンを見渡して尋ねた。コクセはク爺の煙草屋で雑用をする労働者だった。

「そのようだったな。」

「チェ・マルムがうちのサンノミに何の用でしょうか?まさかその屋敷にも恋煩いを患う人がいるのではないでしょうか?」

「両班と言えど、春風に心が揺れないことがあろうか?」

「それならば、正しい人を見つけましたね。恋の病にはうちのサンノムに敵うものはいないですからね。」

いまや点程に小さくなったサンノムを見守るコクセの目に情がたっぷりと込められている。

「ところでご主人、うちのサンノム、今年で何歳になりましたか?」

「アイツが十四歳で初めて会ったから・・。サンノム、あいつも今年でもう十七歳になったんだ。」

「十七歳にしかならない幼い奴がどうして女人の心をそんなにも精通しているのでしょう?」

コクセはサンノムを見る度に、いつも気になっていた。サンノムはどうしてそんなに女人に精通しているのだろうか?煙竹に新しい煙草を満たして火をつけたク爺がぷかぷかと煙を吸ってから出して、言った。

「知らんよ。アイツの中に尾が九つも付いた九尾狐が入っているのかどうかなんてな。」

 

 

***

 

 

チェ・マルムがラオンを案内したのは、キム進士宅別棟だった。まだ結婚をしていない末の若様の居所。ラオンは一か月前から、五日に一度の割合でこちらに出入りしていた。ここで、恋慕に陥ったキムの若様に代わり、恋文を書いていたのである。今日もいつものように恋文を一枚書く用だと思っていた。ところが、実際にキムの若様に会うと、そんな場合ではないことを直感した。

「あぁ、早く来なさい。」

ラオンを歓迎したキムの若様の顔には深い影が見えた。

「お変わりはないでしょうか?」

「起きたよ。とても、大変なことが起きた。」

キムの若様の慌てた声に、ラオンがさっと頭を上げた。

「どんなことが・・・。」

「あ・・あの方が・・・・あの方から返事の紙・・・送られてきたのだ。」

キムの若様が冷や汗をしきりに流し、片言で話した。

「お返事なら、しばしば送って来られませんか?」

「そうだろう。ところが、今回は少し違う内容だったのだ。」

「少し、違う内容というと?何か問題が起きたのですか?」

尋ねるラオンの声に憂いがこもった。もしかして、自分が送った書簡によってキムの若様の恋慕が駄目になることはないだろう?

「そうではない。」

「そうでないなら、何ですか?」

「・・・・あ・・会おうとなさるのだ。」

「はい?」

「い・・今すぐに、会おうとなさるのだ。」

「そんなことなら・・・良い日はないのですか?これまで言葉だけで気持ちを伝えて、完全な気持ちを伝えていらっしゃらなかったのではないですか?今すぐ会って、本音をばっと見せて差し上げてください。」

「で・・できない。」

キムの若様が頭をぶんぶんと振った。とても白く、少なくとも真っ青に血の気の引いた顔色は深刻で見えるものではなかった。

一体どうしてそうなのだろう?恋慕している方が会おうと仰っているのに、どうしてそのように恐れていらっしゃるのだろう?良いことじゃないか。幸せで飛び上がることじゃないの?

ラオンが理解できないというような表情で首を傾げた。その時、いきなりキムの若様が手を取ってきた。

「た・・助けてくれ。」

キムの若様の目は、切実さに満ちていた。

過ぎた望の日(陰暦で毎月の十五日)、廣通橋(カンドンキョ)の橋の上でキムの若様は、空の花のように美しい人に出会った。しかし、幼い頃から言葉がひどくどもっているキムの若様はどうしてもその本心を打ち明けることができなかった。どもりと冷やかしでもされるかということを心配したのだ。

次の日から、キムの若様は、言えなかった切ない心を込めた恋文を書き始めた。しかし美しい方に送るには、非常に不足した作文だった。悩むキムの若様にチェ・マルムがラオンを紹介した。そして、女人に精通しているラオンの恋文は、満足した結果をもたらした。美しい方が、返事を送って来られたのだ。

今日も、いつものように恋文の返事であることだけかと思った。しかし、違った。白い紙の上に書かれているのは、密かにお会いしたいという内容だった。そして、書状の末尾に驚くべき事実の一つを書いて送って来た。

他ならぬその方、その綺麗で美しいお嬢様の正体を。

キムの若様があえて見られてはならない程、高貴でさらに高貴なお方だった。返事を読んでいたキムの若様は、とても驚き、ついその場にぺたんと座り込んでしまった。その高貴な方がこのようなどもりが、恋文を送っていたと知ったら?さらに、恋文を書いた張本人が、自分ではなく、他の人だと知るようになったとしたら?

滅門之禍(멸문지화)に合うかもしれないことだった。恐怖に手足をガタガタとするキムの若様に、チェ・マルムが囁いた。

「サンノムを変わりに送るのはどうですか?女人のことなら知らないことはないその者、高貴なお方の気持ちを害さずに事を終えることができるでしょう。

 

**************************************

前半はネットからの訳でしたが、ここからは半分、原作本の訳です。ネットと本だと、いくつか文章が変わっていますね☆なので前半部で本と違う文があったらごめんなさいね☆ま・・意訳も多いので、日本語訳の本が出ても全然違うでしょうが。。綺麗に訳せるよう、語彙を増やそう!!!( *¯ ³¯*)♡ㄘゅ

 

1/4文章訂正済みです。