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この物語はある一人の少年がやらかしてしまったバカ話です

 

 <第16章> 親友との共通点と無知なぼく

 

 ぼくは学生時代あまり真剣に勉強をしてこなかったため、ずいぶんとアホな人生を送ってきました。

 今回はその一例をお話ししようとおもいます。

 

 ぼくは(中退しちゃったけど)大学時代、築四十年ぐらは経っているだろう古めかしい、というか風呂なしのオンボロアパートで暮らしていました。

 家賃は月2万8千円(管理費込み)、六畳一間の台所。ベッドを置いてしまうと、ほとんどスペースが無くなってしまい、にもかかわらず、」ぼくは作家志望の無能な大学生だったので、ワープロ、そしてそれを置く机と椅子、タンス、テレビ、CDプレーヤー、本棚などなどいろんなものを置きまくっていたので、座るところは執筆用のいすしかありませんでいた。

 ですので、食事は、卵かけごはん、ごはんをケチャップで炒めただけの肉なしのチキンライスなどを食べていました。ちなみにこのチキンライスは現在ぼくの姉の大好物になっていて、頻繁につくってくれと、せがまれることもしばしばです。

 いつだったか、大食い女王のギャル曽根さんが、お父様がつくった多額の借金を残して家を出ていってしまった時に、残された家族で貧しい暮らしをしいられていて時期があって、そのころの大好物は『赤いごはん』と命名されたチキンライスで、いまでもその美味を忘れることはできない、とテレビでおっしゃっていたのをぼくは鮮明に記憶しています。

 他にも貧乏学生時代よく食べたのは、五袋入りの即席ラーメン、しかもその味は時にはしょうゆ、時にはみそ、時には塩、と味に飽きがこないように工夫していました。

 あとは、貧乏暮らしを経験なさったことのある方は、きっとぼくと同じように、一袋に、七、八本入ったチョコチップのロングパンを食べて、空腹をしのいでいました。

 信じてもらえないかもしれませんが、学生時代同じクラスだったTくんもぼくとおなじような食生活を送っていました。

 

 『類は友を呼ぶ』

 

 昔の人は上手いこといったもんです。

 ここまでで、ぼくが貧しく食べるのに苦労した学生だったということはわかってもらえたかと思います。

 そしてさらに、信じてもらえないかもしれませんが、Tくんも、ぼくほどではありませんが、極貧生活を送っていました。しかし彼の暮らすアパートにはユニットバスがついていました。つまり、Tくんはぼくよりほんの少し裕福だったということです。

 風呂なしアパートに住むぼくはよく彼のアパートのユニットバスを使わしてもらったものです。たとえユニットといえども立派なバスです。お風呂に入って体を洗う、湯船につかる、それだけで、身も心も、ずいぶんといやされるものです。

 そんなバカな大学生の、どうしようもない、バカ話をさせていただきます。

 

 トイレで「大きい方」をし終えると(誰でもそうだと思いますが)トイレットペーパーで肛門あるいはその周辺を拭いて、お尻をきれいにしようとします。

 しかし、たいていの場合、その肛門周辺を拭いたトイレットペーパーを見ると、多くの場合、トイレットペーパーにちょこっと茶色い物体が残ってる場合が、かなりの確率で、あります。

 そこでみなさんに質問です。

 みなさんはスーパーマーケットやドラッグストアなどでトイレットペーパーを購入する時「シングル」と「ダブル」のどちらを購入しますか?

 きっと、多くの人が「ダブル」を買うと、ぼくは思います。

 なぜなら、ダブルのトイレットペーパーの方が、やわらかく、お尻に優しく、気持ちいいからです。

 しかし、財力のなかった大学時代のぼくやTくんはすこしでも安くて長い方、つまり、シングルのトイレットペーパーを買っていました。

 本当はぼくもTくんもダブルのトイレットペーパーを使って、お尻に優しく、気持ちよくお尻を拭きたかったのですが、つらい貧乏生活、少しでも家計を節約するためシングルのトイレットペーパーを仕方なく買っていました。ですので、トイレで「大きい方」をすませたあと、お尻を拭くとトイレットペーパーに付着する茶色い物体のが赤くにじんでいることが、ありました。ぼくは、

「もしや!?」

と、思うことが、頻繁にありました。

 ぼくは、そのことを、つまり、自分が「ぢ」であることを、自分だけの秘密にして死ぬまでかく」しておこうと、決めていました。

 

 本当に。生きているといろんなことがありますね。奇跡、悲劇を問わず……。

 Tくん宅でユニットバスを使わせてもらっていたぼくは、Tくんもシングルのトイレットペーパーをを使っていることに気付いていました。

 そんなある日、Tくん宅でミスチルのアルバム『深海』を聞きながら雑談をしていた時、Tくんが

「ちょっとトイレ」

 といってユニットバスに入りました。残されたぼくはぼんやりCDを聞きながら、本棚を、なんかおもしろい本ないかな~、と物色していました。

 そうこうしているうちにミスチルの曲は1曲、1曲流れ、『名もなき詩』まで進みました。

「Tくん、トイレ長いな、ゲリでもしたのかな」

 そうぼくが思ったのとほぼ同時に、トイレの水が流れる音がしました。

ユニットバスから出てきたTくんにぼくは聞きました。

「トイレ長かったな、腹でもこわしたか?」

 ぼくはそれまでの人生で「こんなにも」と思えるほど切なげな顔をした人を見たことがない、と思えるほどTくんは悲痛な顔をして、こういったのです。

 

「おれ、『ぢ』だ」

 

 この告白に、Tくんはどれほどの勇気を要したかはわかりません。もしかしたら、泣いていたかもしれません。

 そして親友が秘密を打ち明けてくれたのだから、ぼくも勇気を出して告白しなければなりません。

「Tくん、気にするな、おれも、ぢ、だよ」

 ぼくとTくんは二人で悲嘆にくれ、自分たちの不名誉を呪いました。そんな屈辱的な思い出だけを残して、ぼくは大学をやめてしまいました。

 しかし、ぼくは実家には帰らず、オンボロアパート暮らしを続けました。そして就職したことによって雀の涙程度ではありましたが収入も増え、トイレットペーパーも夢のダブルを変えるようになり、トイレで大きい方をした時のダブルのトイレットペーパーでお尻を拭ける感激と快感はいまだに忘れることはりません。

『天にも昇る喜び』

 言葉は知っていましたが、やはり、いざ、実体験するとでは大きな差があるものです。

 以上が、『親友との共通点です』

 

 それではもうひとつのテーマ『ぼくの無知』についてお話しましょう。

 『親友との共通点』が長い話になってみなさんお疲れでしょうから『ぼくの無知』は簡潔にお話ししますね。

 

 高校生の頃から、英語の成績だけはよく、外国人と英語でコミュニケーションをとるのがすきだったぼくは、ダブルのトイレットペーパーを買えるようになってから英会話教室にかよっていました。時間は午前11時から午後12じまで。レッスンを終えて、昼食の弁当をコンビニに行った時のことです。コンビニで商品を物色していた僕の携帯に着信がありました。Tくんからでした。

「もしもし、長嶋?」

「ああ、どうした?」

「いや、昼飯、一緒にどうかと思って」

「ああ、いいけど、今、おれ、コンビニで弁当買おうと思ってって」

「じゃあなんでもいいからおれの分も買ってきてくれよ」

「いいけど、なにがいい?」

「じゃあ、なんか一番ボリュームのあるやつ頼む」

「オーケー、それじゃあ」

 ぼくはガリガリでしたがTくんは恰幅がよかったので、ぼくは「ペペロンチーノ、Tくにはジャンボハンバーグ弁当、そして500ミリリットル入りのコーラを二本かごに入れ、ぼくはレジに並びました。

 一人ずつ、一人ずつ、会計を済ませて外へ出ていきます。

 そしてぼくの順番がきました。

 高校生のアルバイトらしい若い少女が、ぼくのかごから商品を取り出して、ピッ、ピッ、とレジの機会に値段を読みこませていきます。

 ここからが、ぼくの無知の証明です。

 多くの場合、というか絶対、コンビニで弁当のたぐいのものを買うと、「お弁当、暖めますか?」

 と尋ねられまずね。そして多くの人、というかほぼ全員が、

「はい」

 と答えますね。そして続けて、

「おはしお付けしますか?」

 と尋ねられますね。

 この答えは人それぞれでしょうが、もし必要であれば、

「はい」

 と答えますね。

 さて、みなさん、いよいよここからです。

 ぼくは、

「お弁当、暖めになりますか?

 と聞かれたので、

「はい」

 と答えました、そして、

「おはしお付けになられますか?」

 と聞かれて、

「はい」

 と答えました。続けて、

「ナンゼンお付けしましょうか?」

と聞かれました。

 ナンゼン?

 ぼくの頭の中はわけのわからない状態になりました。

 ナンゼンってなんだ? でももらえるんならもらっておこう、と思って、元気よく、

「はい」

 と答えました。

 するとレジの少女は、鳩が豆鉄砲を食ったよう、というか、すっとんきょうな顔をして、ぼくの顔をガン見しながら、こいつ、なに言ってんの?という表情をみせました。

 みなさん、もうおわかりですね、ぼくはおはしを、一膳、二膳、と答えることを知らなかったのです。

 真冬の氷のようにかたまった少女に、もう一つのレジで会計をしていた経営者らしきおばさんが、

「一膳で……」

 とかたまって微動だにしなくなった少女をフォローしました。

 ぼくは恥ずかしくて、逃げるように、そのコンビニから出ていきました。

 それ以来、ぼくはそのコンビニに行くことができなくなりました。

「とほほ……」

 箸のかぞえかたなんて知らなくても死にはしません。でも、この出来事が記憶のトラウマになって、コンビニでおはしをもらう時に、いつも、悲嘆にくれてしまいます。

 ナンゼン……。

 みなさん、ぼくと一緒に、物の数え方を学習しましょう。

 そこで一問。

 みなさん、たんす、ってどう数えるかご存知ですか?