その瞳 信じて いつまでも6





病院へは俺のバイクの後ろにカズを乗せて行った。


自分のバイクは明日取りに来るから、と、俺の服をひっぱり、潤んだ瞳で見上げながら、『まーくんと離れたくないんだ。ダメ……?』なんて言って来たカズ。


ダメだなんて言えるわけがない。


カズはいつもよりも俺の背中に自分の体を密着させて、ぎゅっと腕を絡ませてくる。すべてを俺に打ち明けたせいなのか、なんだかダイレクトに感情を表すようになったみたいだ。


これから父さんのお見舞いに行くっていうのに、カズの密着度のせいでけしからん感情が沸き上がって来て、俺はそれを吹き飛ばすようにバイクを走らせた。



病院に着いて、あらかじめ聞いておいた父さんの病室を目指した。病院内のことは俺よりカズの方が詳しくて、俺はカズの後を付いて行くだけ。大きな病院の中で迷子にならずに済んだ。


たどり着いた病室は、想像とは違っていた。


俺が小さい頃に、おばあちゃんが病院で亡くなっていて、俺のおぼろげな記憶の中では、病院と言うものは死の匂いが漂う怖い場所だった。暗くて、冷たくて、悲しい場所。


だけど、ここは綺麗で明るくて、そんなイメージからはほど遠い。大きな窓から日の光が射し込み、その光は片隅にある哀しみもすべて照らすようにあたたかかった。


五十嵐家の兄弟みんながそこにいた。


ベッドのそばにはしょうちゃんが立っていて、ソファーではおおちゃんがくつろいでいて、潤は窓際の小さなテーブルに花を飾っているところだった。


「雅紀。和也くんも。すまないな、心配かけて」


ベッドに横たわった父さんが、俺たちを見るなりそう言った。顔色は悪かったけれど、しっかりとした声だった。


「よかった。思ったより元気そうで」


それだけ言うと、後は言葉が出てこなかった。弱った父親を見るのはやはりつらい。


俺は、幼かった頃のカズを思って、胸が痛くなった。彼はどんな想いで病気の父親を見守ったのか。



「もう! 心配させないでよ。どうせこれからひろ子ちゃんにこっぴどく叱られるんだろうから、お説教はしないであげるけどさ」


カズがほっぺを膨らませて言うと、父さんは弱々しく苦笑いをして、みんなそれを見て笑った。


おおちゃんと潤は、俺とカズをニコニコしながら見ていた。しょうちゃんは申し訳なさそうな顔をして、カズに近寄って来た。


「あの、昨日は……」


しょうちゃんがそう言いかけた時、病室の扉が勢いよく開けられた。


大きな荷物を持った母さんが立っていた。ドカドカと病室に入ると、荷物を乱暴にソファーに置いた。


「あら、みんな、勢揃いなのね。世話をかけたわね。ご苦労さま」


ちょっとビクッとしている俺たちに、母さんは微笑んだ。


「ちょっと2人きりにしてくれるかしら? あなたたちの尊敬する、大好きなパパが叱られるとこなんて見たくないでしょう?」



口調は柔らかだけど、目が全然笑ってない母さんに震えながら、俺たちは部屋を出た。きっと怯えているであろう父さんの顔は見れなかった。