その瞳信じて いつまでも3
バイクを走らせ、水族館の駐輪場に着くと、カズのバイクを見つけた。
カズのいる場所の、候補は2つ。
まず、俺とカズが初めて出会ったドルフィンスタジアムに行ってみた。
開館したばかりの平日の水族館はまだ人もまばらで、ショーまではかなり時間があるためか、スタジアムには誰もいなかった。
ここにいないのなら、残るのはあと一つ。
暗い通路を通って、俺はクラゲの展示されているあの円形の部屋に入った。
暗がりの中でダイオウグソクムシの水槽の前に人影を確認した時、本当はすぐにでもそこに行って、その人を抱きしめたかった。
だけど、なぜカズがこの場所を選んだのか、その意味を考えると、それは出来なかった。
俺は、以前ヨコと“ささやきの回廊”の体験を繰り返したポイントへと向かった。
そこは何もない壁。合図するように、その壁をトントンと軽く叩いた。
──ここにいるよ。
しばらく、静寂が、続いた。
俺は壁にもたれて待っていた。
やがて、語りかけるような、カズの声が聞こえた。
『ねえ、まーくん。まーくんは覚えているかな? 言ったら思い出すかな? オレとまーくんが初めて出会った夏の日ことを……』
そうして、カズは長い長い物語を、語り始めた。俺の知らなかった、カズのストーリー。
カズが俺のために、俺の元にやって来てくれたこと。それはわかってた。
だけど、知らなかった。
俺が思うよりもずっとずっと深く、カズが俺を愛していてくれたことを。
俺にそこまでしてもらえる価値があるのだろうか。ただ、イルカショーの中で泣いている君を見つけて、声をかけただけなのに。
君が俺に救われたと言うのなら、俺こそ君に救われた。
だけど、俺が君に抱く感情は、感謝ではなくて、それはもう、愛なんだ。
長い長い愛情物語の締めくくりに、カズは言った。
『こんなオレでも、あなたのそばにいてもいいですか?そして。あなたに、そばにいて欲しいです』
涙が溢れた。
『うん。そばにいてよ。そばにいるから』
そう言うと、俺はカズのいる方に向かって歩き出した。
中央にある、でかいクラゲの水槽の前でカズを見つけた俺は、思いきり彼を抱きしめた。
抱き合う俺たちを、色とりどりのライトに照らされたクラゲがユラユラ見てた。