君の深いところに響いている 25




800平方メートルほどの円形の部屋。


その空間の中に、大小さまざまな水槽が配置され、色とりどりのライトに照らし出されて、ふわふわとクラゲたちが浮かぶ。



そこは、神秘的で幻想的な、宝石箱のような場所。



その部屋の隅っこの、薄暗くて目立たないところにある、深海生物のコーナーに、ダイオウグソクムシはいた。



水族館に行くなら、朝一番がいい。



そう教えてくれたのはまーくんだった。



平日の午前中の水族館は、人もまばら。特に、ゴールデンウィークが終わった後の日曜日の、翌日の月曜日だから、なおさらだ。



そして、朝からこんなマイナーなコーナーに来る物好きはいない。



だから、ダイオウグソクムシにずっと語りかけているオレを、誰も気に止めてはいなかった。



長い長い話の締めくくりに、オレはささやくように彼に言った。



「こんなオレでも、あなたのそばにいてもいいですか? そして。あなたに、そばにいて欲しいです」




──うん。そばにいてよ。そばにいるから。




“彼” が言った。




オレは、そっと後ろを振り返る。




円形の空間。



その、オレのいる場所からは対面となる、反対側を見つめる。



部屋の真ん中には大きな円柱の、クラゲの水槽があって、それが邪魔をしてその姿を確認することは出来ない。



だけど、わかる。その人がそこにいること。



オレはその人に向かって、真っ直ぐ歩き始めた。



部屋の中央のクラゲの水槽の前まで来た時、水槽の陰からその人が姿を現した。彼もオレの方に向かって歩いて来てくれたのだ。



オレと彼は、水槽の前で立ち止まり、見つめ合う。



ゆらゆらと泳ぐクラゲ。

そのクラゲを照らす幻想的な色とりどりのライトが、ゆらゆらとオレたちも照らす。



その人は泣いていた。



それから、彼は手をのばして、オレを抱きしめた。






第7章 終