桜が咲いております
なつかしい
葛飾の桜が咲いております …
土手の桜も満開か …
やっぱりいいモンだな …
故郷ッてやつはよ
よお~
備後屋ッ
相変わらずバカか ?
うるせ-
このフーテンがッ
ケンカ売ってンのか
ほぉ~
テメーに買えるのか ?
安かねえぞ
この貧乏人ッ
おおッ
ヤッてやろーじゃねえか !
このッ
このッ
おッ
なんだぁ
このヒョウロクだま !
これでも喰らえッ
あッ
アブねぇじゃねえか !
へへン
どうだ
参ったか ?
チクショー
覚えてろッ
テメェと遊んでるほど
コチとら暇じゃねぇンだ
とっとと失せろ !
さあて
老い先短けぇ老夫婦の
シケたツラでも
拝みに行くとするか
まあ!
寅ちゃんッ
おばちゃん
元気そうでなによりだ
うんうん
おおッ
寅じゃねぇか
よおッ
おいちゃん
おかえり
寅ちゃん
しばらくだったねぇ
夕べもみんなで
今頃どうしてンだろうッて
オメェのこと
話してたとこなんだぜ
そうかい
そうかい …
すまねェな
心配かけちまッてよ
寅ちゃんの好きな
お芋の煮っころがしを
たくさんこさえれば
帰ってくるかねぇ …
なぁーンて言ってさッ
オレもいいトシこいて
相変わらずの
テキヤ風情さ …
だから
この家の敷居が
高くッてなぁ
ナニ言ってンだい
身内じゃないか
水くさいねぇ
そうそう
ここは
オメェんちなんだぞ
気ぃつかうこたぁねえ
…
ありがとうよ
おいちゃん
おばちゃん
お茶でも淹れようかね
おい
ツネ
お茶じゃなくて
ビール出してやれ
あいよッ
どうだい
おいちゃん
景気の方は ?
ン?
あぁ …
花見の時季だ
ダンゴも売れて
いそがしいンだろ ?
いやぁ
たいしたこたぁねぇよ
さっき土手を通ったらよ
アベックで
いっぱいだったぜ
近ごろの若けェのは
舌が肥えてるから
こんなダンゴなんか
食やぁしねェよ
なるほどねぇ
花よりダンゴ
ってわけにはいかねぇか …
まったくだ
まぁ
ふたりとも
達者でいられンだから
それでいいじゃねぇか
なッ
ちげぇねぇ
贅沢言ったら
バチがあたらぁ
あらッ
お兄ちゃん!
おおッ
おかえりなさい
いつ帰ってきたの?
たった今だよ
そう
電話もよこさないンだもん …
みんなで心配してたのよ
さっき
おばちゃんから聞いたよ
でもよかった
元気そうでなによりね
悪かったな
サクラ …
…?
兄ちゃんも
うれしいよ
幸せそうな
サクラの顔がみられて …
…??
オレはよ
いつもお天とう様に
サクラの幸せを祈っ
お兄ちゃん …
ン?
どうしたサクラ?
急にポケ~ッとしちまって
お兄ちゃんッ
大丈夫?
熱でもあるンじゃない?
おいッ
よせよ
熱なンかあるわけないだろ
ウソよッ
ねぇ
お兄ちゃん
しっかりして!
なンだよ
サクラッ
いったいどうしちまったンだよ
おい
寅 …
寅ちゃんッ
なッ
なンだよ
おいちゃんおばちゃんまで
鳩が豆鉄砲くらったみてぇな
ツラしやがって
寅
オメぇ
いくらなんでも …
だからぁ
俺がナニしたッてンだよ!
ねぇ …
お兄ちゃん
サクラさんって …
誰なの?
寅ちゃん!
旅先で惚れた女の名前と
みなみちゃんを
呼び間違えるなンて …
それじゃあ
あんまりだよッ
ちょッ
ちょっとまってくれよぉ~
いいのよ
おばちゃん
きっとお兄ちゃん
疲れてるのよ …
おいッ
サクラッ!
いい加減にしろ!
寅ッ
いつまでふざけてやがるンだ
おまえはッ
ふざけてる?
俺がいつふざけたッてンだよ
みなみはなぁ
オマエの
たったひとりの
妹じゃあねぇかッ
それを …
おいおい
おいちゃん
それだよ!
誰だよ
そのみなみッてのは
え?
ちょっとアンタ …
お医者に診せたほうが
いいンじゃないかい?
記憶ソーシツってやつだよ
寅ちゃん …
いや
こりゃ
ケンボー症じゃねぇかな
ちょっとアタシ
ヒロシさん呼んでくる
コラッ
サクラ
ちょっと待て!
なんですか?
騒々しい
おッ
ヒロシ!
あっ
ヒロシさん
丁度よかった
やあ
兄さん
おかえりなさい
ちょっと聞いとくれよッ
寅ちゃんがね
おかしくなッちゃったンだよぉ
ヒロシッ
あいさつなンて
あとだあとだ
いったい
どうしたんですか?
ヒロシ
いいか?
オレがこれから訊くことに
落ち着いて答えろよ
はい …
わかりました
ヒロシさん
この馬鹿
あろうことか …
うるせえ
ジジイッ
外野は黙ってろ!
ヒロシ …
オレのたったひとりの
妹であり …
オマエの
可愛い恋女房である
そこで
メソメソ泣いてる女の
名前を言ってみろ
はあ?
はあ?
じゃあないよオマエッ
いいから言ってみろ
みなみ …
ですよ
ヒロシッ
てめー!
寅!
ヒロシさんが
デタラメ言うわきゃねぇだろ
そうだよ
妹の名前を忘れちまうなンて …
みなみちゃんが
可哀想じゃないかッ
ヒロシさん …
お兄ちゃんね
アタシのことを
サクラさんってひとと
勘違いしてるみたいなの …
サクラ?
兄さん
誰なンですか
そのひとは
は~ん
わかったゾ
もうヘタな芝居はやめろ
芝居?
おまえたち
みんなで
オレを担ごうッて魂胆だな
ナニを言ってるンですか
どうして我々が兄さんを
騙さなきゃならないンですか
ホラッ
なンだ
アレだ
四月バカッてやつだろ
え?
図星だろッ
おいちゃん!
なにが
四月バカだよ …
ったく
いいトシこいて
バカなコト
するんじゃあないよッ
テメーなンか
年がら年中バカじゃねえか
ホラとなぁ
他人のケツは
ふくもンじゃあねってンだ!
よ~く覚えとけッ
はぁ~
バカだねぇ …
こいつは
本当にバカだねぇ
とにかく兄さん
今晩ゆっくり
話は聞きますから …
おいッ
待て!
まだ終わっちゃねえぞ
なんだい
なんだい
コウバの中まで
騒ぎ声が聞こえてるよ
社長
すみません
どうしたンだい
ヒロシさん
おっ
タコッ
いいトコへ来た
おや?
なンだ寅さん
帰ってたのか?
オマエんとこの
職工がな
こともあろうに
テメーの女房の名前を
間違えやがってよぉ
ヒロシさんの女房?
みなみさんのコトかい?
タコッ!
テメーもこいつらの
グルかッ
なっ
なんだよ
社長 …
どうやら兄さん
また恋をしているようで …
アタシのことを
サクラ
サクラって …
あはは~
そいつぁいいや
ナニが可笑しいッ
この陽気だもンなぁ
寅さんの頭ン中も
桜が満開ッてか?
あはは~
こりゃいいや
陽気のせいなら
いいンだけどねぇ …
へぇ~
今度はサクラさんッてヒトか
美人かい?
どこのヒトだい?
テメー
このヤロー!
あいたッ
ナニしやがる
およしよッ
寅ちゃん!
テメーんとこの
印刷コウバが
朝から晩まで
ガシャガシャやかましいから
こいつらみんな
アタマが
おかしくなったじゃねぇか!
おかしいのは
兄さんのほうですよ!
おいヒロシッ
おまえあんなコウバ
やめちまえ!
ちょっと
ナニ言ってンの
お兄ちゃんッ
安い給料で
こき使われて
働けど働けど
貧乏暮らしから
ぬけられねぇ …
そンな生活が続けば
人間誰だって
根性がひねくれらぁ
ひねくれてンのは
オマエだ
寅!
でなきゃ
オマエとサクラが
オレを担ごうなンて
考えるワケねぇじゃねえかッ
悪かったな!
どうせオレは
安月給しか払えない
無能な経営者だよッ!
チクショーッ
おいちゃんも
おばちゃんも
モウロクしたンなら
こんなダンゴ屋
くたばる前に
とっとと
たたんじまえッ
おいッ寅!
なンだよッ
出て行け
今すぐこの家から
出て行け!
二度と敷居を
またぐンじゃねえ!
おじさん
落ち着きましょう
兄さんも
言葉がすぎますよ
ほぉ~
そうかい
そうかい …
オレに出て行けってか?
アンタッ
今帰ってきた
ばっかりなンだよ
ナニもそこまで
言わなくっても …
おいちゃん …
それを言っちゃあ
おしまいよ!
お兄ちゃんッ
謝って
おいちゃんと
おばちゃんに
謝って
うるせぇ!
たったひとりの妹の名を
オレが忘れるワケ
ねぇじゃねえか …
兄さん …
どいつもこいつも
よってたかって
ひとのコト
バカにしやがって …
寅ちゃんッ
あばよッ
達者でな!
待って!
ねえ
待ってよ
お兄ちゃんッ
こんな
ペテン師の巣窟みてぇな家に
誰が帰ってくるもんか!
サクラッ
止めてもムダだ
ねえ
どうして …
どうしてそんなに
サクラッて名前に
こだわるのよ …
どうしてって …
オマエは
ずっと
サクラだったじゃねぇか …
…
それにな …
それに?
それに
なあに?
お兄ちゃんッ
昔っから
決まってるじゃあねえか …
“ テキヤ ” に
“ サクラ ” は
付き物だってな
from Noah /(^o^)\
みなみ
見な …
兄ちゃんはなぁ
あんな雲に
ごぶさたを
いたしております
最後まで
ご精読いただき
ありがとうございましたッ
\(^o^)/