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不快に感じられる表現が含まれています
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麗南坂ヒルズは
高層のオフィス棟を中心に
集合住宅棟
宿泊施設棟
文化施設棟
それらに併設された
ショッピング ・ モールから
形作られている
かつて
この辺り一帯は
都心にありながら
交通の便が悪く
“ 陸の孤島 ” と揶揄され
昔ながらの
商店が軒を連ねる
静かな街であった
80 年代の中頃
地下鉄の新設計画が
持ち上がると
それに併せ
大手ディベロッパーが
この地域の再開発事業に
乗りだした
しかし
地域住民の
根強い抵抗や
急激な景気動向の悪化等
さまざまな課題を抱え
紆余曲折の末
計画から完成までには
20 年もの歳月を
要することとなる
それでも
地下鉄が全線開通し
アクセスが
飛躍的に改善された
この複合商業エリアは
老若男女を問わず
さまざまな人間が
集い
行き交う
TOKYO 屈指の
情報発信基地として
今日も賑わっている
小田 栄 ( しげる ) は
外資系ホテルと
クラシック音楽専用ホールとを繋ぐ
地下通路で
3 歩うしろを歩く
吉川美南を振り返った
この先の
中央監視へ
声をかけたら
今日は終わりだ
黒のタンクトップ
黒のローライズデニム
黒のエナメルパンプス
全身に黒を纏い
形の良い鼻梁に
サングラスを落とした女は
黙したまま
小田をみつめている
美しいデコルテと
大きく開いた
豊かな胸の谷間に
うっすらと汗が光る
小田は
くしゃくしゃのハンカチで
額を拭うと
あわてて
そこから視線を逸らし
言葉をついだ
そのあと
冷てェのを一杯 …
ってのはどうだ ?
しかし
吉川美南は
ビアジョッキを
掲げるしぐさをする
小田の脇を
無言ですり抜け
先を歩きはじめる
左右に揺れる
魅惑的なヒップと
引き締まった
ウェストラインに
小田の視線は
ふたたび釘付けになった
10 日ほど前
英国ロンドンで
地下鉄路線を
同時爆破する
テロリズムが発生した
世界の主要都市が
警戒を強めるなか
当然 TOKYO も例外ではない
特別警戒態勢が敷かれ
関係各所に緊張が走った
東京警視庁
麗南坂署
刑事課に属する
小田 栄と
吉川美南も
所轄内の民間施設へ
協力を要請するために
麗南坂ヒルズを訪れていた
地下通路の最奥に
エリア全体を統括する
中央監視室はある
関係者以外立入禁止
事務的な文言が
黒のカッティングシールで
貼付された
アイボリーの鉄扉を
小田が僅かに開けると
室内から
女の騒ぎ立てる声が
聞こえてきた
人を
泥棒扱いして
頭下げるだけで
済むと思ってんのかよッ !
酒でしゃがれたような
耳障りな声が
恫喝する
申し訳ございませんッ
こちらの不手際に
ございました …
どこか気弱そうな
小さな声がこたえる
そこのババアに
着てるモン
脱がされて
下着にまでなったんだッ
この屈辱 …
どうしてくれるんだよッ !
小田と
吉川美南は
扉の陰で
そのやり取りに
耳をかたむけた
これは冤罪だッ
え ・ ん ・ ざ ・ い !
名誉毀損で訴えッぞ
この店 !
興奮した女は
さらに声を荒げ
まくし立てる
そっちの
出方によっちゃ
商売
できなくなるんだぞッ
それでも
いいのかよ ?
対応に当たっている男は
無言のまま
平身低頭の様子だ
だったら
誠意をみせろよ …
女は
やや声のトーンを落とした
100 万 …
それで許してやるよ
語尾には
狡猾な
含み笑いが感じられた
どうやら
窃盗
いわゆる “ 万引き ” の疑いで
所持品改めから
身体検査まで行ったが
肝心の “ ブツ ” が
出てこなかったのであろう
でも
私は確かにみました
この人が
商品棚から
口紅を床に落として …
女性警備員の声は
涙で震えていた
だから
そんなモン
どこにあるっていうんだよ !
さっき
さんざ調べたじゃねぇかよッ
女が何度も
スチール机を叩く音が
室内に響く
いいから
さっさと
カネ用意しろよッ !
女は
金切り声で叫んだ
ちょっと待って …
よく透る澄んだ声が
室内の 3 人を
一斉に扉の方へと
振り向かせ
黒のタンクトップ
黒のローライズデニム
黒のエナメルパンプス
全身に黒を纏った
吉川美南に
すべての視線が集まった
誰だよ
オマエは …
四十を
ひとつかふたつでた
小太りの中年女が
訝しげに口を開くと
垂れ下がった
頬の肉が揺れる
吉川美南は
ふてぶてしく
椅子に腰かける女へ
黒い警察手帳を
開示した
威嚇するように
鋭い視線を
吉川美南へと
送っていた女の表情が
瞬く間に引き攣る
対照的に
還暦を過ぎたであろう
ノーネクタイの
年老いた男と
やはり
艶のない白髪が目立つ
女性警備員には
安堵の表情が浮ぶ
私に
調べさせて …
ゆっくりと
形の良い鼻梁から
サングラスをはずす
任意だから
拒否もできるけど …
しかし
長い睫に縁どられた
黒い瞳が
鋭く光り
女に
有無を言わせない
しばらく
外に出ていて …
吉川美南は
小田に目配せをし
退室を促す
私の眼は
“ ふし穴 ” じゃない …
不安げに
視線を游がせ座る
女の椅子を
吉川美南の
スラリと伸びた
ながい脚が
まるで鞭のように
蹴りあげた
あッ
派手に音をたて
仰向けに
床に転がる女の
フレアスカートが捲る
はじめるわよ …
肉付きのよい素足が
太ももまで
露になる
なっ
なにを …
後退りし
壁に
追い詰められた女と
腕を組み
立ちはだかる
吉川美南を残し
小田の目の前で
鉄扉は
静かに閉じられた
“ ムショ ” と
おなじ検査を
してあげる …
わなわなと震える
女の顔が
恐怖にゆがむ
こうやって
せしめたおカネで …
吉川美南の
しなやかな指が動く
ゆ …
ゆるして ッ
おねがい …
女は声を押し殺し
懇願する
オトコを買って …
女は
海老のように
背を反らせる
ここに …
奥深くまで
ゆっくりと
吉川美南の指が
侵攻する
咥えこむンでしょ …
女は
身悶え
ブラウスの上から
己の乳房を掴む
やッ
やめない … で
女は
熱い吐息を
赤黒い唇から
漏らす
だったら
こんなモノ …
吉川美南の
紅指し指が
“ ブツ ” を
探りあてる
挿れてちゃ
ダメじゃない …
獲物を捉えた
隼のように
吉川美南は
一気に抜き去る
あぁッ !
女は
肉壁を抉る
強烈な擦過感に
耐えきれず
掠れた
嬌声をあげ
昇りつめた
鉄扉が
ふたたび開くと
吉川美南が立っていた
女は
だらしなく
四肢を弛緩させ
汚れた床へ
横たわっている
証拠物件
押収しました …
吉川美南は
白い指先につまんだ
男性用避妊具を
美しい顔のまえで
揺らす
女の
常套手段 …
薄い
桃色のゴムに包まれ
女の盗んだ
リップスティックが
揺れていた
床に落としたブツを
スカートで隠して
素早く
挿入 …
吉川美南は
グロスに濡れた唇に
Salem を咥える
女は
“ 穴 ” の数が
男より
ひとつ
多いのだから …
避妊具の表面が
女の蜜で
ぬらぬらと照る
しっかり
“ 最終ホール ” まで
調べなきゃ …
女を見遣る
吉川美南の
美しい横顔が
悪戯っぽく
笑った
夏の陽射しは
未だ傾かず
並んで歩く
小田と
吉川美南の
影を色濃く
映していた
しかし
なんだな …
小田が
独りごちるように
口をひらく
オンナには
便利な隠し場所が
あるもンだな
吉川美南は
咥えた Salem から
紫煙をたち昇らせている
まさか
オマエも …
タンクトップの
肩越しに
白い入道雲が
湧きたつ
ヘンなモノを
隠してるンじゃあ
ねぇだろうなッ
小田は
声にして笑ったが
あまりにも
品がなさ過ぎたかと
あわてて立ち止まり
隣をうかがう
ンなわけねぇ … か
吉川美南も
歩みをとめ
ゆっくりと
形の良い鼻梁から
サングラスを外す
いや …
すまんッ
あたふたとする小田に
吉川美南の
美しい顔が近づく
わ …
悪かった
直立不動の小田は
じっとりと
汗を湧きあがらせる
もしも …
Salem が
灼熱のアスファルトに
落ちる
私の …
しなやかな腕が
小田の太い首へ
白蛇のように
するりと巻きつく
“ 最終ホール ” を …
張りの良い
乳房が
小田の
濡れたシャツに
つぶれる
お調べになりたければ …
小田の
荒れた唇に
熱い
吐息がかかる
今夜 …
蠱惑的な
黒い瞳が
静かに閉じる
酔わせてみてください …
街の音が
フェードアウトする
“ ベーゼ ” という名の …
遠い
夏空に
トレーラーの
ロングホーンが
こだまする
カクテルで …
スコールをはこぶ
ウエットな風に
黒髪がなびくと
ほのかに
フローラルの
芳香がひろがった
from Noah †
