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スーパーマーケットの地下にあるフードコーナーへ立ち寄った。
遅めの昼食になるが、私はカレーライスを注文する。
なんの変哲もないカレーライスだが、半熟の茹で玉子がトッピングされていた。
すると周りの者たちが集まってきて、一口ずつ私のカレーライスを食べてゆくではないか。

「この茹で玉子を崩して食べると美味しいね。」

なるほど、確かに美味しそうだ。
だが何故おまえたちが食している?
気を取り直して、もう一度注文することにした。

「悪いね、お客さん。茹で玉子は品切れなんだよ。」

職人風の店員が、ラーメンを調理しながら言い捨てる。
店内の壁に目をやると、
『絶品ゆでたまご! 数に限りあり!』
という文字、そして茹で玉子が乗せられたカレーライスとラーメンの写真があった。

この店のメインは茹で玉子なのか。
結局私は自宅へ帰り、スパゲティを食べたのだった。
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カランカラン・・・。

窓の外から、神社のあれのような音がする。
もう朝か。カーテンの隙間から光が漏れている。

カランカラン・・・。

赤ん坊をあやす玩具、あれのような音がする。
まだ朝も早い。このまま眠り直してしまおうか。

しかし何の音だろう?
窓から見下ろしてみる。
年配の男性がにやにやしながら、建築中の隣家を眺めているようだ。

カランカラン・・・。

あの男から発せられている音か?
いや、違った。猫が居る。
消火栓の周りをうろうろしている猫、その首には鈴が付いているのだろう。
ブロック塀を昇ったり降りたり、その度にカランカランと鳴り響く。
にやにやしているあの男の飼い猫だ。
細い紐が、消火栓と猫の首とを繋いでいるではないか。

寝起き眼のわりによく見えるものだなあ。
私は窓を閉めた。
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女性が叫んでいる。

それはちょうど『人を殺すための書物』なるものを、私が手にした瞬間だった。
夢か現かという状態のまま耳をすます。
先程よりも穏やかだが透き通った声で、女性は何か同じ言葉を二度繰り返した。

ひとの名前かもしれない。
誰かに呼び掛けているのだろうか?
そう思ったが、彼女の声に対する返事は聞こえてこない。
会話をしているわけではなさそうだ。
では、ひとの名前ではなかったのか。
何故きちんと聞き取れなかったのだろう。


ああ、今宵は妙に背中が冷える。