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「兄貴がマグロの解体をしている。食べに来ないか?」
見知らぬ男に声を掛けられた。

「私は魚が食べられない。」
しかしマグロの解体とは豪快だ、見に行こう。
男の後に続き、飲み屋の暖簾をくぐる。

包丁を握っている体格のいい男は、なんと私の文通相手だった。
いつも電報でやりとりをしている、広島在住の人間だ。
何故こんなところに居るのだろう。
案内してくれた男は、彼の弟とのことである。

「俺たちはマグロで一攫千金を目論んでいるんだ。」
「だが、末の弟は悪いことをして金を稼ごうとしている。」

私は末の弟が居るという小さな工場へ足を運んだ。
そっと覗き込む。なんとも粗末な設備ではないか。
そこでは白い錠剤を作る機械が稼働していた。

「秘密の金儲けさ。あんたもやるかい?」
件の末子はカボチャを食べながら唇を歪ませる。
非常に変わったカボチャの食べ方をしているので、それで特許を取ったらどうだろう。
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彼らは運が悪い

住所を盗まれた
氏名を盗まれた

通報しようにも
何処へ呼ぼうか
なんと名乗るか


演じるしかない

何のことかしら

我々が何者かを
知らせるために

たしかにそうね
それしかないわ


ずっと繰り返し
いつになったら
元に戻れるのか

ほら見ろ彼らは
まだやっている
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従姉妹の家が改築されていた。
新しい浴室が素晴らしいと聞いたので覗いてみる。
とても無機質な造りで、やたらと広く天井が高い。
突き当たりにもうひとつ扉があり、どこかへ通り抜けられるようだ。

そこから出てみると、まるで博物館内部のような場所に繋がっていた。
広大なフロア、そして先ほどの浴室以上に高い天井。
ぽつぽつと観光客が行き交っている。
呆然としながら立ち入った部屋は、しっとりしたフローリングの床になっていた。
モップを掛けている人物がずっと私の後を付いてくる。
私は裸足だった。

迷ってしまったのだと思い駆け出した私を、人々は驚いた顔で振り返る。
建物の外は凹凸の激しい石畳であり、足の裏がジリジリ痛んだ。
人々が笑って見ている。
それでも走り続け、歩道橋を駆け上がった。駅の裏口が見えた。

帰れる。一瞬ホッとしたが、歩道橋の下り階段がないではないか。
まるで滑り台のようになっているのだ。
私は子どもみたいにはしゃぎながら滑り落ち、着地点で車に撥ねられた。