実は私は、三歳の時に両親の離婚を経験しています。
父とは、私が十八歳の時、心筋梗塞で他界し、葬式で顔を見るまで一度も会っていませんでした。
私の母は、父の悪いところも言いましたが、いいところも教えてくれていました。父の話はよく聞かされました。
何度か
「あんた、パパに会いたい?」
と聞く事があったのですが、私はいつも
「別に、会いたくないよ」
と、答えていました。
「会いたい」などと言っては、母が悲しむのではないかと、子供心に思っていたのです。
父の死後、母から、生前父は私に会いたがっていたという話を聞きました。
運動会や学芸会では、後ろの方で、私に気付かれないように、高校の文化祭では、剣道部の招待試合をやはり、そっと見ていたというのです。ほかにも、なにか行事があると後ろの方からそっと・・・
父は私を見に来ていたんだ。私に会いたがっていたんだ。
父が私に会いたがっていたなんて思いもしなかった。
そんなこと、聞いた事もなかった。
その話で救われた様な、なんか嬉しいような、すごく悲しい気持ちになった事を思い出します。
父に悪い事をしたような、可愛そうな事をしてしまったような・・・
いろんな気持ちがいっぺんにこみ上げてきて、
「なんで、教えてくれなかったんだよ!」
私は食って掛かりました。
「だって、あんた、パパに会いたくないって言ってたじゃない」
この言葉に私は愕然としました。
わかってなかったんだ!
母は、私のことは、なんでもわかってると思ってたのに、私の本当の気持ちがわかってなかったんだ。
「本当は、俺だって会いたかったよ!会いたいなんて言ったら、母さんが悲しむと思ったから、言えなかったんじゃないか!」
言葉にはできなかった。そんなことを言ったら、今度は母が悲しむ。
母の性格からして悪気がなかったのはわかっていた。
でも釈然とはしなかった。
この事は、いまだに母には言っていない。
もう終わった事、いまさら言ってもしょうがない、俺も悪かったし、なにより、母に後悔して欲しくなかった。ずっとそう思い続けてきた。
父は母から、私が会いたがってないから、気付かれない様にとクギを刺されていたらしい。
息子が会いたがってない、と聞かされた父の気持ちを想うと胸が痛い。
誤解なのだ。
でも最期まで、父には伝わらなかった。
姉は父に何度か会っていたらしい。
これも、父の死後聞いた話だ。
父にとっては救いだったろう。
なんか俺だけがバカみたいに思えた。
よかれと思ってしたことなのに、墓場まで持っていくには、まぬけな話だ。
実の親子であっても、実の姉弟であっても、本当の気持ちなんて、伝わらないこともある。
「子どもが会いたくないと 言っている」
って、
こういうこともあるんだよ。