ーーーー俺たちが生徒会役員になる直前。

「これより、姪吉舎学園生徒会役員選考の為、演説会を行います。演説者は前へ。」
これは、姪吉舎学園生徒会の役員を決める行事。
特に落選するという事は無いのだが、代々の取決めで一度は演説を行う形式になっているから、やらなくてはいけない。

因みに何故俺が立候補したかといえば、
俺が逆らえない人の一人、床夏懐月姉様その人が強く推薦したという理由だけ。

 

俺たち5人が前に出ると、俺の姉様にして生徒会立候補者の一人、懐月姉様に向けて

一部生徒(主に男子)から歓声が上がる。
「懐月さ〜ん!」「お姉様〜!」「あぁ…我々の女神…!!幸あれや…」
あぁ、これが初の生徒会メンバーのお披露目だというのに、変な目立ち方をしている…。

僕と懐月姉様。そしてもう一人、同居人にしてスーパー天才のまた子はこの状況に慣れているのだが…。

そっと残り二人の候補者の様子を伺う。
「…あれ?アタシ会長だよ…?もっと目立たなきゃいけないのかな…?背景を爆発させた方が…?いやいや、窓ガラスから飛んできた方が…?」
………何やら物騒な事を呟いていたので聞かなかったことにした。
…さらにもう一人は…?
なんか藁人形を取り出して針をぷすぷすさしていた。
………見なかったことにした。

「生徒会長。前へ。」
えぇっと、ピッタコス・唄乃。ギラギラした銀髪に光が乱反射する
確か、武闘派で改心させた不良の数は数えきれず、毒、痺れ、火傷をもろともしない最強の生徒。またアイスランドでは二つ名を氷砕の愚者「コキュートスブレイカー」というらしい。

歩く爆弾があると思った方がいい…らしい。
○ム兵かよ。

唄乃さんは前に出ると、右手を天高く上げた。
「来るぞーーー!構えろ!!」
男子生徒の叫びが聞こえる…。まさか、本当に爆発でもするのか…!?
新しい会長は生徒達のざわめきの中、指パッチンを決める。

次の瞬間、体育館は納まりのつかない混沌へと誘われた、、
ぐおんぐおんと、ライブハウスにいるかの様な爆音BGM。体育館の扉が開き、競馬部が奇声を上げながら生徒を取り囲む。音楽部がミラーボールを設置し、あぁ、手芸部が文字の入った垂れ幕を飾ろうとしている…「お・め・で・と・…鬱?」最後の文字が違う!あぁ、なんか喧嘩している!!運動部は人間ピラミッド作ってる!!教師がなんか叫んでいる…!!
新しい会長を除く僕ら4人は黙って座り込むしかなかった…。だってすごいびっくりして!あ、あの生徒流血してるよ!

そのカオスを見守ること3分。

生徒会長が再び指パッチンをする。
……すると、さっき迄の混沌が嘘の様に収まってしまった。競馬部も体育館から立ち退き、手芸部も筆で文字を書き直して席につく。

「生徒会長。ピッタコス・唄乃だ。……よろしく。」

何故かわからないが、拍手の嵐が巻き起こった。中には「良かった…良かった!」と泣きじゃくる生徒。「俺、この日の為に鍛えたんだぜ?ほら、りんご一個分の上腕二頭筋…」
なに?この状況…帰りたい!
どうしよう!すごく帰りたい…!!

新しい会長の知り合いだと言う、懐月姉様の方を見る…なんか指パッチンの真似しようとしてる!
うぅ、こっちを見て…、あ、気づいた。親指を立てて…╭( ・ㅂ・)و ̑̑ グッ ! 
「じゃねぇよぉぉぉ!!」

静まり返った場に、俺の声だけが響き渡る。
えぇ…何これ…? 
「えぇと、書記の……影…とぎさん。前へ。」
放送部のお姉さんが進行を続けようとしてくれている。
…どうしよう?此処で言いたい事を言って、姉様と同じ生徒会に入らなかった場合、僕はめちゃくちゃに怒られてしまう。…しょうがないから、此処は穏便に…。

「アタシの演説が気に入らなかった様だな。」
マイクのスイッチが入りっぱなしの状態で、その女は僕の心境を吐露してくれやがった。
………何してくれてんだぁぁぁぁぁ!!!

「ブーブー!」
「ブーブー!!かーえーれ!かーえーれ!」
めちゃくちゃヤジとゴミがが飛んできた。どんだけ人気なんだこの会長。…帰りたいのはこっちの方です。

…どうにか穏便に済ませる方法はないか…?
みんなが笑顔で追われる方法…。
「えぇい!静かにしろっ!お前ら!!……生徒会長ピッタコス・唄乃!…さっきは度肝を抜かれる演説だった。だがなぁ、だがなぁ………。」
冷汗しか出ない。だがもう、この場を収めるにはこの言葉しかない
「今の素晴らしい演説を、俺が超えてやるよおおおおお!!!!」

…俺が叫んでから十数秒。か細い拍手が徐々に大きくなり、会長に負けない拍手が鳴り響く。
「「「うぉおおおおおおおお!!!」」」
「頑張れー!」「会長に負けないで!!」「いいぞ〜!今日から兄弟だ!!」
こんなに嬉しくない拍手は初めてだ…。あと誰だ兄弟って言ったの…。あぁ、もう。

消えてしまいたいぃぁぁぁぁ!

「次に、生徒会副会長。」

次の演説は…また子。
……見た目は美少女。頭はキノコ。
コイツはその成績の良さで群を抜いている…けど、
発する言葉が一単語で精一杯なところを、演説だけ懐月姉様と特訓したんだ!
だから、俺と唄乃会長とのやり取りで心を乱されなければちゃんと…。

「……………。」
確か最初の出だしは、"最初は苦難から始まった学生生活、悪い所を改善…"…だったか?


十数秒経った後、発した言葉。
「……………最悪。」

言っちゃいけない単語出ちゃったぁあああああ!!!

おい。また一言しか喋れなくなっちゃったよ。
生徒がみんなまた子の少ない言葉数に、ポカーンとしている。
なにか!何か助け舟を出さないと…。
考えろ…考えろ!

静寂を切るように、赤髪の少女は前に出る。
「確かに。学校行事で怪我人を出すだなんて最悪ね。」
床夏懐月姉様が、また子からマイクを掬いとる。
「この生徒会は、まだまだ未熟です。後先考えずにこの学園の力を乱用したり、場をかき乱したりして大事を成すことのできる人間が、少なくとも二人いるからです。」
会長と俺の方を見ながら微笑む懐月姉様。
「ですが、また子は誰よりも的確に状況を捉え、高い処理能力で私たちを導いてくくれます。」
懐月姉様は、優しくまたこの肩に手を添える。
「例え口下手であっても、他の役員が手を取り、(腰取り)」
ん?なんか小声で聴こえてくる…。
「支え合って(夜の)活動することができます。皆で素晴らしい学園生活を送る為に、(精)力を惜しみません。どうぞよろしくお願いします。」

…二人に向けて、拍手が起こった。
あれ、なんだろう。普通、そうだよね。
俺もそんな空気の演説にしたかった…あれ?何故か涙が出てくる…

異常な演説の後に、(下ネタ入りではあるが)ちゃんとした演説。普通なのに、普段なら聞き流すのに…。
懐月姉様の人気も相まって、その演説は、とても評価の高いものになった。…競っているわけじゃないけど、なんだこれ。

「最後に、生徒会会計…ーーー」
最後に一年生のまともな演説があり、俺たちは正式に生徒会に加入となった。

ちなみに、一年の生徒会会計のリュネット・カラから生徒会除名の申請があった…。
見なかったことにした。

しばらくして〜〜

「わたしかあなたたちか、どっちでもいい!除名させてください!!」

放課後の生徒会室。怒号と共に生徒会長にメンチ切っているのはリュネット・カラ。
「おぉ。リュネット・カラか。どうした?除名申請書だけ置いて。」
会長がカラが書いたであろう除名申請書をヒラヒラさせる。
「そうよ〜。会長が生徒会顧問の先生に提出せずに待っていてくれたんだから。」

「まさかこんな頭がおかしい人達だとは思っていなかったんですよ!」
リュネット・カラが水晶とタロットを取り出す。
「お、占いか?アタシは知っているぞ。君は稀代の占い師として名を馳せたらしいじゃないか。」
「いいわね〜。ちょっと占って貰えるかしら…?」

「私はずっっっと我慢していたんです!この生徒会が呪われている事を知りながら!!…でも、今回の演説で分かりました。貴方達はまともに活動する気がないってことが。」 

…なにそれ、めっちゃわかる。
というかそもそも、カラちゃん自分の演説の時半泣きだったし。

カラがタロットカードを見せてくる。
「まず、生徒会全体としては皇帝の逆位置!」
「なにそのめっちゃハマってるカード!?」

「このカードが場に出た時、今後この生徒会は統率力や権力を失います。生徒会にとって、効果はバツグンなんです!」
「カードゲームみたいな説明!」

「あ、後影伽さんには死神のカードが出ています…。」
「そのカードは生物に効果バツグンだね!?」
まぁ、一度除霊されたドッペルゲンガーという意味では正しいんだけど…。
まぁ、さすがは占い師と言ったところか…。

「あと、そこの床夏さんには恋人、また子ちゃんには星のカードです。ちなみに星は豊かな収穫を表すので、恐らくキノコのことでしょう…。」
「あら。よく私たちのことを調べてあるのね…。」
懐月姉様が感心している。

「床夏さんは有名なので分かります。また子ちゃんは…、先程の演説で立ち上がったときに椅子にキノコが生えていました…。影伽さんは、あの演説の後ですから、会長のファンに刺されると思います。」
「豊かすぎんでしょう!歩くキノコ栽培機!?え、というかそっち!?俺は2回死ぬのか!?」

「アタシのファンはバイオレンスだからなぁ…。入会特典は10kgのダンベルだし。」
「武装集団でも作る気ですか…。」
俺はツっ込まずにはいられなかった

「そして、アタシはなんなんだ?」
「愚者、…浮浪者です。会長。…貴方は学校を正しく導く事とは別の目的があるはずです。生徒会はただの足がかりとしか思っていませんね!?」

「…端的な話、それは、皆そうだろう…?」
進学や内申点、他の町を巡る訪問権。そういう特権みたいなのがあるには、ある。特に興味なんてなかったから見送っていたが…。

「…我々のことを調べてくれた様だから、お返しに君の所属している会社、"剣(つるぎ)株式会社"について。ーーー結論。君はこの学園に眠る魔剣を譲り受けようという魂胆だろう?」

「あら。"剣"って、神具を集めている企業のことね。」
☆神具…。又の名を神憑武具。神の力を宿した道具のことである。神の力を無効化する聖水や、噂話を盗み聴く水鏡など誰もが一度は聞いたことがある御伽話の道具である。

「ぐぬぬ…。」
「すべてを見通す占い師さん。さしづめ、今の生徒会に静かに潜入するつもりだったのでしょうけど、私達は超…」
「強いぞ!」
会長が強調して最後の単語を言い放つ。

「…別に、うまくいく算段なんてなかった。唯、この歳だから…。都合の良い高校一年生だから…!………数年前に砕かれた魔剣グラムの鞘があるって聞いちゃったんだぁぁぁよぉお〜!?」

「…ちょ、叫ばないでよ。今部活の帳簿に目を通してるんだから…。また子が。」
見ると、懐月姉様とまた子が長テーブルに席を陣取り仕事をしていた。

「あれぇぇぇぇ??さっきまでの空気は?やっと私のターンが来たと思ったのに!」
リュネット・カラが椅子の上に立つ。
「紫闇の光は希望の繋ぎ手。隠剣のリュネット!今日はド派手にやっちゃうよぉ!!」

「…会長。陰険な新入生が新しい環境に適応できていません。」
「そんなかわいそうな目で私を見るなぁぁぁぁ!……導け!サモセク!!!」
リュネッネット・カラはその頼りない胸元から小ぶりな剣を引っ張り出す。俺達は剣よりも、ソレが醸し出す嫌な雰囲気をひしひしと感じ取った。
 

 




が、たいして作業を辞める者はいない。
少女が剣を持って睨み付けていても、だ。

「会長。出番ですよ。」
「嫌だよ。影伽先輩行ってよ。」
「…僕は女の子に手をあげない方針なので。」
「じゃぁ体当たりで。」
そういうと、会長は俺の体を軽々と持ち上げた。
「ちょ、触らないでください!僕の清廉潔白童貞というステータスが!」
「悪かった。……よっと。」
そして、リュネット目掛けて投げつける。

「ぁぁぁぃぁあああ!!!避けてぇてぇ!!」
「くっ…来るか!?」
リュネットは躊躇うことなく剣を構える。
…刺さったら、痛いわぁこれ…。

「うぉぉお!僕は従順なる君の影(アイシャドウ)!!!」
…俺はドッペルゲンガー。複写体。俺の崇める神様は、どうやら人間以外にも変身させてくれるらしい。

投げられた体は一瞬のうちに彼女の構えた剣。サモセクへと変化する。

ーーーキィィィイイイイイイイン

甲高い悲鳴(主に俺の)をあげて、少女と剣と俺はその場に倒れ込む。
「いったぁぁああああああい!!」
剣に変身したからと言って、痛みがなくなるわけではなかった…。
だって数ヶ月ぶりに使ったんだもん。この力。

ーーーー数時間後。

気絶したカラとあばらを折った俺は保健室にいた。
「…リュネット。…あんな危ないのはまた今度にしな。」
「…泥棒未遂に明日があるとでも?」
隠し刀"サモセク"は気がついたら隠れて消えていた。

いや、隠れていたのはサモセクというより彼女の心…………………。

「……あの後お前が寝てる間に生徒会の機密情報ファイルを更新してたんだけどさ…。グラムの鞘。会長が持ってるらしいよ。」

静かにリュネット・カラが語りだす。
「…アレ、仲間の形見でさ。まぁ、戦場に落としてたのが悪いんだけどさ。…なんか、他の人に使われるのがシャクでさ…。」
「…生徒会に入りたいのに、除名したがってみたり……入りたがっていない。………やっと君のことが理解できた気がする。」

「生徒会長に、なりたかったんだけどさ。さっきみたいに、私、力じゃ勝てないし、人徳もないし…。本当は、影伽…………、お兄ちゃんが眩しく見えちゃったんだよね…。……自分が情けなくて泣いた。……本当は斬りかかるつもりなんて、なかったのになぁ…。」

「会長さ、待ってるって言ってたよ。」
「私を?……一応、殺そうとしたのに?」

「……正直、会長はいろんな死地をくぐり抜けてきてる。安全だと知ってるから、俺を投げつけたんだよ。…あの時、"あとは君がどうにかしろ"って言われたし。あと君は弱い。」

「そっか…。私だって、二年以上、死地を見てきたつもりだったんだけどなぁ…。あと弱いは余計。」
落胆する彼女に、俺は事実を述べることしかできない。
だって俺は、ただの複写体。人間の劣化コピーなのだから。普通のことしかできない。

「君、怪我軽いでしょ。生徒会室まで松葉杖ついていくの、手伝ってよ。」
「はい?…でも合わせる顔が。」
「行けばわるよ。皆ピンピンしてる。除名届けも、君が斬りかかってきたのも俺たちにとってはとるに足らない日常茶飯事なの。……ほら、上着取って。」

俺の裾の長い黒いパーカーと、リュネット・カラのフードが保健室に掛けてある。
「うわぷ…!」
カラは俺の顔に向かって布を投げつける
「先輩は…剣を取り戻すの、手伝ってくれませんか!?」

俺は冷たく言い放つ
「やなこった。自分のことは、自分でやりな。」
全く嫌なわけではないが、会長の敵になる気も、嫌がらせばっかりしているカラの敵になる気もない。
何故ならどちらも美少女だから。それだけの理由で今は充分。

「先輩?これでもですかぁ……?」
カラが自分のスマホの画面を見せつけてくる。そこに写っていたのは…
「俺がお前のフードを顔に擦り付けているように見える…。え?なにこの写真!?」

先程受け取った布をよく見てみる。
なるほどなるほど。
…清廉潔白童貞を目指す俺は、
…状況を理解した俺は、あぁ、頷くしかなかった。

 

感動のエンディングはどこ????