<松岡圭祐小説を時系列順に読もう~その11~>
松岡圭祐『千里眼 マジシャンの少女 完全版』(角川文庫)
本作は、まず最初に小学館から単行本『千里眼のマジシャン』として発売されました。しかし、後に発売される小学館文庫版『千里眼の死角』の作中でダビデが語るところによると、ハードカバー版『千里眼のマジシャン』はメフィスト・コンサルティングが発売したフィクション作品であり、文庫版『千里眼 マジシャンの少女』は事実に基づいたかたちでかかれている、ということになっているようです。単行本版はフィクションで、文庫版が正史ということです。文庫版の『完全版』として発売されたのが本作です。
しかし、かつて公式ホームページには、マジシャンシリーズの紹介で「「千里眼・マジシャンの少女」(「千里眼のマジシャン」)は番外編であり、正式にはこのシリーズに含めない」と書かれていたことがありますので、その辺はよくわかりません。
表紙はいつもの女性の素材ですが、左手にトランプを持たせてしまいました。これを見てから他の表紙を見ると、この手はいったい何をしようとしているんだろうかと考えてしまいます。
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・『千里眼の瞳 完全版』でちゃんと臨床心理士をやっていた朝比奈宏美ですが、本作では嵯峨敏也の助手的な役割になり下がっています。しかも、岬美由紀が同じ職場で働いていることになっています。なぜ官房長官の秘書から嵯峨に対して「岬美由紀はどこにいるか」という問い合わせ電話がくるのでしょうか。このあたりがクラシックシリーズ後半の残念なところです。
・タイトルにあるように、『マジシャン』の主役、里見沙希が登場します。里見について、「父は前科もある詐欺師」と書かれていますが、この設定は小学館版『マジシャン』で描かれているものの、角川版『マジシャン 完全版』では削られてしまいました。角川版しか読んだことがない方は、事情がわからないかもしれません。ハードカバー『千里眼のマジシャン』には、舛城徹も主要登場人物として登場していましたが、文庫版になって藍河隆一という人物に置き換えられました。そのままでも良かったような気もしますが、それだと『イリュージョン』に繋げられないという理由でしょうか。舛城だったからこそ、名簿に里見の名前を見つけただけで出席を決めた流れも自然だったんですが。
・蒼い瞳とニュアージュシリーズの宇崎俊一も名前だけ出てきます。
・「アミノサプリ」とは懐かしい響きです。現在では製造中止となっていました。そういえば「DAKARA」って最近見ないな。
・「伊藤洪庵」「チャイニーズパスタ」というのは、本書で書かれているようなものとしては実在しないようです。そこを感じさせないように、うまく読者を誘導しています。