膝蓋腱反射といえば、大腿四頭筋の伸展にはじまり、前角運動ニューロンの興奮による大腿四頭筋の屈曲という脊髄レベルでの回路が作動すると理解されている。
少なくとも、高校、大学受験レベルのテキストではそのような記載がされている。
一般的な生理学のテキストについても同様だろう。
しかし、実際には大脳皮質からの調節が機能している。
(どの経路を介しているかについては未確認。宿題としておく。)
膝を叩かれそうだという視覚的な情報を得ると同時に、大脳皮質は抑制的な信号を発信し、大腿四頭筋の過剰な反射を防いでいる。
何かに気を取られている隙に膝を叩いてもらえば大脳皮質からの調節を受けないが、基本的には、我々の行動は脳(大脳皮質)の支配下にある。
ここで重要なことは、なぜ、反射を介して伸展した筋肉を元に戻そうとする回路を作用させつつも、それにブレーキをかける経路までをも機能させる必要があるのかということである。
車の運転をイメージすれば比較的容易に理解できる。
アクセルとブレーキの両方が存在することで速度の微調節が可能になる。
神経回路では、興奮性ニューロンと抑制性ニューロンが存在することでより複雑で微妙な調節を実現できる。
例えば、ある神経核を形成する細胞体の集団に対して、どれだけの割合の細胞体を活性化させるかというような調節も可能になる(小脳核へのプルキンエ細胞からの入力など)。
アクセルしかないような回路ではこれは難しい。
つまり、大腿四頭筋を丁度良い状態(元の状態)に戻すためにはアクセルとブレーキを使った微調節が必要だということである。
解糖系を例にとっても然りである。
生化学のテキストには解糖系の各ステップがまるで一方通行のように示されている。
しかし、実際には逆方向の反応も起きている。
キナーゼによる反応であってもホスファターゼによって逆反応が動く。
酵素反応は、平衡定数で示される平衡状態に反応を進めるものである。
それは、反応物と生成物のバランスを微調節することでもある。
そのために両方向の反応を利用するのは合目的である。