私の家から車で30分ほどの京田辺市の甘南備山の麓は、今でも自然豊かで田んぼや雑木林がある。

子供達がまだ小さい頃、本当に良く遊びに行った。

私にとって思い出深いとっておきの場所だ。

カブトムシやザリガニ、カエルや蛇、ヌマエビ、シジミ、ヌートリアなどがいて、つい時間を忘れてしまう。

今からもう20年ほど前の話になる。

いつものように甘南備山の麓の川沿いを歩き、カブトムシがいそうな木がないかウロウロしていた時の事。

たまたま出会ったお爺さんはタケノコ農家で、色々話をしてくれた。

一休寺の近所に住み、苗字は井上さんだったと記憶している。

そのうち自分は若い頃、特攻隊員で数日後には出撃する予定だったが、終戦を迎えて生き延びたと言う。

一生懸命にその時の話をしてくださったが、あまりに唐突で圧倒され、残念ながら細かい事はもう覚えていない。

その後、井上さんの話に影響を受けたのか、気が付けば城山三郎の「指揮官たちの特攻」を読んでいた。

戦争の経験が無いのは幸せな事だが、特攻隊や戦争の事を全く知らないのはいけないと思うようになっていた。

それからもベストセラーになった百田尚樹の「永遠の0」は一気に読んで涙した。映画ももちろん見た。

他にも特攻隊をテーマにした映画「俺は、君のためにこそ死ににいく」や「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら」も見て、心がざわついた。

特攻隊に関する本や映画をいくら見ても、特攻隊について知っている事はほんの一部でしかない。

4,000人もの青年達が、自分の命と引き換えに守ろうとした事実を、決して忘れてはいけない。

特攻隊の事をもっと知っていたら、あの日、井上さんにもっと突っ込んだ話が聞けたのに、本当に残念だ。

今こうして平和でのほほんと暮らせているのは、過去の人々のおかげだ。

過去の歴史を知らなくても生きていけるが、知っていた方が良いに決まっている。


サラリーマンを辞めたら鹿児島の知覧特攻平和会館に行きたかった。

1945年、終戦直前の特攻隊の青年達に、その中にいた井上さんに、少しでも触れてみたかった。



インスタ映えする場所に行くのも良いが、先人に思いを馳せ、自分と向き合う旅はかけがえのないものだ。

この体、この体力で鹿児島までの旅行はもう無理だが、井上さんと出会えた奇跡に感謝しよう。