茨城県
山に程近い倉庫を借り、機体は保管

この時期、ぼくは頻繁に山に向かう


胸元に、バックアップとよばれる緊急用パラシュートが仕込まれた
ハーネスや、ヘルメットなどは

オートバイや、父親のクルマを借りて運ぶ
あるいは仲間のクルマに便乗

時間はあるがオカネのない者同士
ある時払いの催促なしよ、で融通しあい

いや、非情な催促はあるけれど

今日もハンググライダーは
ふわり、空をとぶ


僕の機体は
クルマでいえば軽自動車
オートバイなら250ccくらい、かな

空の散歩を、かるく楽しむには適している

このサイズだと、機種名も
相棒、友達など可愛らしい言葉の外国語表記が多い

上位機種だと、ちょっぴりセクシーだったり、なかなか勇ましい名前が冠されている

ハンググライダーの機種には
操作特性や、剛性
乗り手の適正体重や、スピードなど個性があり


スピードは、対気速度で表し
自分が時速50㎞で進み、向かい風速20㎞だと
合計の時速70㎞が対気速度となる


状況が、乗り手の技量と自機の性能を超えたとき


たとえば、トレーニングジムでランニングマシン
脚力以上のスピード設定で無理をすると
後ろに飛ばされます


ハムスターもホイールの中で調子にのりすぎると、
自分が回されます、
くるくる


さて
上空を散歩中に春一番、やってきて

それは、予測もし
対処も折り込み済みだった


自然はいつも、ちいさな人間の想定など
かるく飛び越してくる


僕の機体は、さっさとランディングに向かおうとしますが
強い向かい風におさえられ、前に進めず
空中で静止の状態

強い機体に乗る仲間は、強風の中でも
よお、ガンバレ などと声をかけ
ぐいぐい進んでいきます


やがて、静止どころか風に負けてじりじり後退を始めた機体

ハンググライダーがバックする珍しい光景は
テイクオフの山頂からも眺められ
お、oleがんばってるな~
などと見てる側からは面白がられますが

僕は、いま苦闘中
春の風におされます


強くなる一方の春一番に
ランディングへの帰還は断念し
緊急避難、山の裏側に向かうことに


高度も残り少ない、
急いで着陸地点をさがし、アプローチを組み立てないと

と、使われていない畑のなかに覚えのある鮮やかなカラー
ハンググライダーが、一機羽を休めている
先客?がいた


乗り手の女性の友人も無事なようで
地上から身ぶりで風向きを教えてくれます
ありがたい!



夕刻に向かう山裏で機体を畳み、気温が下がるなか
回収のクルマが来てくれるのを二人で待ちます

本来着陸してはいけない場所なので
なるべく元の状態に戻し
あとで地主のかたに謝りに行かなければなりません



日も落ちて
翌日も飛ぶつもりの僕は、
農家を改修した現地のショップに一泊させてもらい

今日のフライトについて話ながら
存分に古びた座敷のこたつで、
仲間とこしらえたあやしげな鍋を食べ

すき間から冷気が入る部屋に雑魚寝し
布団にくるまり

明日は風がおちつくとよいな
などと思いつつ、眠りにおちる


30年ほどもむかしのはなしです
あのとき山裏で一緒だった彼女は
その後、看護士になった