私の行ってる歯科は、古い住宅街の細い路地の奥にあります。
こういう細い路地の残っている町のことを、「空襲で焼けてない町」とこの地域のお年寄りは言います。
とはいえ、戦後にできた細い路地の地域もあるんだけど、繁華街は空襲で焼けた町が多いらしいので、そう言われてるのかもです。
そんな細い路地の奥にある歯科は、駐車場が数台ある、小ぢんまりとした歯科なんです。
初めてその歯科に行ったのは1月のこと。
その時から、ちょっと不思議な感じがありました。
その歯科にいる旧知の歯科衛生士さん曰く、「この辺りは駅からもちょっと離れてるし、交通の便も悪くて道も細いから、新しく家を建てる人も少なくて、高齢化が進んでる」とのこと。
確かに廃屋も幾つかあるし、古い家も多い。
その歯科の駐車場の前にも古い家があって、庭に洗濯物が干されています。
私が車を停めると、何故かその家からおばあさんが飛び出してきます。
こちらをチラチラ眺めながら、洗濯物を触るふりして観察してる感じ。
最初は気にしてなかったけど、これが毎回なんですよ。
さすがに気になってきた。
この歯科に来て、おばあさんに会わない日はない。
とにかく車を停めたら、必ずおばあさんに出くわす。
家から出てくる時もあれば、家の前で所在なく立っていることもある。
とにかく、じーっとこちらを見てる日もあれば、チラチラこっちを窺ってたり。
もちろん誰かと立ち話をしている時もあるけども。
とにかく寒い真冬でも、おばあさんは必ず外にいる。
何でだ?
家で暖かいこたつに入ってればいいじゃん!
ある日、いつもの歯科衛生士さんに、そのおばあさんの話をしてみた。
「ああ、あのおばあさんね。
いつもあんな感じだから気にしないで。
ただ暇なだけなんだよ。」
とのこと。
「暇だから、自宅近辺を自主的に警備してるだけみたいな感じ?」
自宅近辺を自主的に警備!
なるほど。
それで私が車を停めたら、すぐに飛び出してくるわけだ。
「別にうちの歯科のことを敵視してるわけじゃなくて、見守ってくれてるみたいよ。
あと、ちょっとでも声を掛けたら、話が長くて捕まっちゃうからね。」
ああ、なるほど。
了解した。
そっか、高齢者になって、ずっと家にいるというのは、そんなに暇なことなのか。
70代後半のうちの母は、かなりアクティブな人で、毎日のように習い事だの友達とランチだので、家にいない人なので、ちょっと想像がつかなかった。
それを聞いた日から、帰りに車に乗ろうとした途端に、おばあさんと目が合った。
軽く会釈をしたら、向こうも会釈をしてくる。
よかった。
歯科衛生士さんの言う通り、こちらに敵意はなさそうだ。
でもそうか、暇なのか。
私もそうなるのかな、将来。
というわけで、来週は仕事終わりに歯科に寄ってきます。
またきっと、おばあさんに会うはず