妻が亡くなくなってからは犬と猫が私の話相手である。どちらもなにか因縁があって我が家に迎え入れたものである。

 犬は名前は正式にはバンビというのだが、これは間違えてつけたものである。初めて出会ったとき、顔が小さく手足が長くまるで小鹿か狐のような気がして、我が家へ連れてきたとき雄であることを考えずそのような名前にしてしまった。今は雄らしくバンとよんでいる。年齢は推定5歳ぐらいである。

 この犬が我が家に来たのは約3年前である。秋の暮れに我が家から10km離れた小高い山にハングライダーの発着する場所があり、眺めがいいので車を駆って散歩に出かけた。その帰り道の林道の中央にこの犬が私たちの車の前に立ちふさがった。邪魔なので車の前から追い払ったが、つづら折りの山道なので斜めにおりてまた車の前に現れる。こういうことを7回ぐらい繰り返しようやく林道を降り切り、人家のあるところへ出たところで姿が見えなくなった。首輪の後もあったので集落のなかのどこかの家から逃げ出した犬だと思った。

 数日後、所要があって姿を見失った集落の近くに行くとやはり同じ犬が車のそばに現れた。また逃げ出したのかと思って見たが、翌日また用事で同じ道を通りかけたときにまた車の前に現れたので、この犬やいわゆる捨て犬であると確信した。那須のこの地ではよく都会から来て飼い犬を捨てていく不届き者がおり、その一部は野良犬として数匹まとまって暮らしているのを見かけることがある。この犬は捨てられてまもない犬で、捨てる前には私と似たような車で運ばれてきたらしい。我が家にはすで13歳の白柴犬がいるのだが、これだけ寄ってくるのはぜひ連れていってくれというこなのだと思い保護することにした。獣医の検診を受け柴犬の血が入ったミックスであるといわれた。先住者の柴犬は一昨年亡妻が最初の入院をした翌日にがんのために亡くなった。今はこのバンがリビングのソファの上に鎮座している。素直で頭の良い犬でなにかあるとすぐお手をする。前の飼い主が子犬ときに訓練したが、大きくなってなにかの都合で飼えなくなり捨てていったもののようだ。

  

 

 猫はもっと不思議な出会いである。亡妻の遺体を家から運びだして葬儀の準備に追われていた翌日の朝玄関の戸を開けると、手にのるぐらいの小さな子猫が待っていてミャオとあいさつし、家に入れてくれというように玄関内に入ってきた。見すぼらしい子猫であったが家に入れところ慣れた様子で人見知りもせず家の歩きまわっていた。

 ひとつの命が家から出て行って、ひとつの命が入ってきたことに不思議な縁を憶えて猫を飼うのは初めてだが我が家に居てもらうことにした。野良猫がよく我が家の家の庭を横切ったり、犬の散歩でも近所でよく猫をみかけるがこのトラ模様の猫は見たことがない。どこから来たのかまったく分からない。獣医にみせたところ生まれて約一か月半程度だという。

 我が家にきて約五か月、来た時く風邪もひいておりふにゃふにゃした猫だったが、いまは美猫に育っている。名前は亡妻の頭文字でミーとよんでいる。