もう一つの大事な問題を考えたいと思う。この問題は原発の再稼働の是非を判断するのに必要である。12年前の東北大震災では東京電力の福島第一、第二原発は壊滅的な被害を受けた。原発というのはこんなに危険であるのかということをあのときは全国民が身に染みて感じたはずである。そのときの衝撃は年を経るほど忘れ去られていくが、今になっても帰還困難地域があることを忘れないで欲しい。

 日本は世界でも有数の地震大国である。地下では大きな三つのプレートがせめぎ合っている。断層は日本のいたるところにある。火山活動も活発である。地質学的な年代では日本列島は誕生したばかりの生き生きとして動く列島であることをまず頭に入れておく必要がある。

 私は材料強度を専門にしていた学者であるが、ものがいつ壊れるというのはどのようにしても予測できないことがわかっている。地殻の壊れも同じである。地震学者が地震予想をできないというのも当然であり、実際の地震が地震予想では30年間の発生確率が低いはずのところで起きている。日本では、いつどこでどんな地震が起きても不思議はないと覚悟しておくべきである。

 当然、こんな日本で原発を持つということは本来なら避けなければならないのだが、政府も経済界も原発運転を再開させることに熱心である。能登の志賀町にある原発もそのひとつである。幸いなことに今回の地震災害では運転休止をしていたために大事故に至ることはなかったが、主電源を受ける変圧器が2機とも油漏れして使えなくなったとか、モニタリング・ポストの一部からデータが受け取れなくなったとか、いくつかの被害が報告されている。

 チェルノブイリ原発、スリーマイル原発のように人為的なミスや機器故障が重なっての原発事故は確かに過去にあったが、日本では福島第一、第二原発のように地震や津波などの自然災害と合わせて事故が生じる可能性が大きい。確かに原子炉圧力容器や格納炉などは安全率を考慮した耐震構造になっているが、もともと数多くの制御棒が突きさっているし、給排水管や蒸気管の他に計測や制御ケーブルなどもつながっているのであるが、配管の接手やケーブルの損傷が起きれば原子炉は制御できなくなる。私は原子炉本体よりこのような周囲設備について十分な耐震性があるのかどうかを心配している。外部の変圧器にはこのような備えがなかったように。

 原発事故がある場合には「原子力災害特別措置法」があり、原発の設置してある地方自治体はこれに基づいて防災指針が定められている。もちろん石川県も志賀町原発に対して立派な「原子力防災のしおり」というのが発行されている。しかし、今回の地震災害で分かったように、原発から5km以内は安定ヨウ素剤を飲んで避難、30km範囲以内は屋外退避で避難の指示待ちということになっている。一部の識者が指摘しているように、今回の地震被害を見れば屋内退避などできないことはまったくその通りであるが、その前に、電気が切れてテレビもなく、通信も途絶したなかで住民に対して避難命令や避難指示をどのようにして伝達できるのかよくよく考えた方がよい。この法律の見直しが必要である。