脳外科で働いていたときのこと
看護師をしていてたまに言われるのは、夜勤のときって怖くないの?ということだ。
病院というと、ちょっとホラーのイメージがあるみたい。
わたしは霊感はない。
でも、想像力が豊かなので(笑)、ホラー映画は見れないし、心霊やホラーは苦手なのだが、病院では一度もそういう恐怖を感じたことはなかった。
わたしにとって病院は、単に職場であり、ホラー映画のそれとは別のものであった。
わたしにとって病院で恐ろしいのは、死んだ人より生きている人々であり、仕事が終わらないことであり、ミスをして誰かに迷惑がかかることだった。
そんなわたしの怖かった話。
ある夜勤のときのこと。
深夜3時ごろ。わたしは、明るいナースステーションを背にして、病棟の廊下を懐中電灯で照らしながら歩いてた。
すると、「看護婦さーん」と声がする。
前方の真っ暗な闇の方から声がする。
懐中電灯で照らすと、そこには、白くて長いワンピースを着た人が!!
恐怖でビクッとして、足が止まった。
この50床以上ある病棟において、歩ける人は数人しかいない。
その数人の中に、ワンピースを着る人なんていない。
わたしは思わず、「でた!」と言ってしまっていた。
でもでも、よーく見ると、それは、ネグリジェとでも言うのだろうか、それを着たおばあさんだった。
いまから15年以上前なので、いまの病棟とは事情が違うと思うけれど、当時はご家族に付き添いをお願いすることも時にはあった。どうしても不穏で落ち着かない患者さんには、夜間ご家族に付き添ってもらうことが稀にあったのだ。
その日、4人部屋に入院中のおじいさんの付き添いに、その方の奥さんが付き添ってくれたのだった。
そして、わたしが出会った幽霊の正体は、その奥さんだったのだ。
当時付き添ってくれる人は、患者さんのベッドの脇に、簡易ベットを広げて、単に横になるだけってくらいのものだったので、パジャマというか、寝るための服に着替える人は見たことなかったし、むしろ、落ち着かない患者さんに寄り添ってもらう事がメインなので、がっつり寝るつもりの服でやってくる人もいなかった。
そんな中で、奥さんは、白いネグリジェをお持ちになり、髪もおろして、寝る体勢でおられたので、わたしは、初めて見えてしまったのかと思った。
やっぱり、生きている人々の方が恐ろしい。ちなみに、奥さんのご用事は、自分の飲み薬を忘れてしまったとのこと。
朝になったら取りに帰られてくださいと話して、解決しました。