わたしが脳外科病棟の看護師だったころ
その頃、わたしは自宅と職場を1時間弱かけて通勤していた。
わたしの自宅は、雪国の中でも結構な豪雪地帯で、冬場はさらに時間がかかったし、ときには何時間もかかることもあった。
わたしたちの勤務は、日勤をしてから、その日の夜中、日付が変わると次の日の勤務ということで、深夜勤務をしていた。
つまり、夕方日勤のあとで、夜0時過ぎからまた朝まで働くという勤務があるのだ。
そんな夜勤のときは、自宅まで帰るのが難しい。だから、自宅には帰らずに、車で仮眠を取ることもあった。
その日もそうして過ごして、夜勤前にコンビニに行こうと車を出し、また病院の駐車場に戻って来た。
すると、降り積もった雪でスタックした車が、駐車場から出られなくて、タイヤがキュルキュルと鳴っていた。
車には、おばあさんと、50〜60歳台のような女性のふたりだった。おばさまが出てきて、スコップで雪をかきはじめたところだったので、車を回して声をかけた。
車、引っ張りますよと。
わたしは、先にもお話したが、普段から豪雪地に住んでいる。
毎年何台もの車が、雪壁に突っ込んだり、道から外れて側溝や道路脇の田んぼに落ちているような道を、何年も通勤していた。
だから、いつか自分がそうなったとき、せめても助けてもらえるための装備として、バッテリーケーブルや牽引ロープを積んでいた。しかしながら、幸運なことに、わたしはまだいちども、突っ込んだり落ちたことはなく、いつも引っ張る側だった。
使い方は慣れていたので、車からロープをつなぎ、運転手のおばさまにも指示を出して、あっさり引き出した。
すると、おばさまが
「わあ!あなたは天使です!」って。
わたし、私服だったし、なんなら病棟では、みなさん脳の疾患の急性期で、「何すんだ、ばか!」とか、「やめろー」とか、普段から感謝なんかとは無縁のところで働いてるので(もちろん、感謝されたくて働くわけじゃないけど、常に暴言が多い)、ちょっとキュンとしてしまった。
患者さんのご家族や、落ち着いた患者さんからは、感謝させることも時にはあるんだけどね。
わたし、看護師ずっとしてるけど、初めて天使って言われたのは、車を引っ張ってあげたときだったな〜。