素性の知れた異常者が、子供を殺し回る「作業」。
映画『悪の経典 ー序章ー』を拝見しました。
生徒から絶大な人気を誇る教師・ハスミンこと蓮実聖司が、自分の失敗を隠すためにクラスメイト全員を殺す話です。
【※ネタバレ注意※】
彼は鼻歌を歌いながら、自分に信頼を寄せる幼気な生徒の命を次々に猟銃で狩っていきます。
ハスミンは生徒らを殺す中で、極端な感情変化を見せない。ただただ殺して回る。さながらベルコトンベアで流れてきた部品を組み立てる工事の作業員のように、淡々と大量殺人を行っていくのです。
この映画はDVDで何度も見させていただきました。サイコホラーが大好きというのもありますが、一番の理由は、好きでたまらないシーンがあったからです。
それはハスミンが生徒を一網打尽にする途中のできごと。
この映画では文化祭の準備のために学校に篭る2年4組の生徒らを、そのクラスを受け持つ担任教師であるハスミンが殺すわけなのですが、生徒らは学校内の様々な場所に散らばっています。そのためハスミンは、ひとつの箇所に固まった生徒の小集団を殺し終えた後で、次の場所へ移動せねばなりません。
その場所移動中、彼は歩きながらペットボトルの水をグッと豪快にひと口飲むのです。
ほんの二秒ていどのカットですが、僕はこのシーンが猛烈に大好きなんですよ!!!
だって怖くないですか?!
ペットの水を飲むなんて、とても人間的な行為じゃないですか。
れっきとしたひとりの人間が、無垢な子供らを殺しているのだと再確認させられるんですよ!!!!!!!
ここまで書けば閲覧者さまの中には「もう分かったので黙ってろ」と思ってくださる方もいるでしょう。そういった方はブラウザバックしていただいて構いません。
ここからは「水を飲む殺人鬼が怖い」の根拠をただつらつらと並べていきます。僕が並べたいから並べます。
◆フード理論◆
あなたは、「フード理論」を知っているだろうか?
物語において、食べ物に対する態度を描くことで、登場人物のキャラクター性を表現する演出技法のことだ。
その原則のひとつに、こんなものがある。
『正体不明の者は、食べ物を食べない』
食べるという行為は人の気が緩む時間であり、「隙」である。キャラクターに親近感を持ってもらうために隙を作れという話はよくあるが、裏を返せば隙を見せねば視聴者はキャラクターを遠い存在として認識してくださるということだ。生理現象レベルの隙を排除したキャラクターとは、近しい存在として認識しづらい。ゆえに正体不明者としての演出に効果的。
これは「食べ物」だけでなく「飲み物」にも言えるかもしれないと僕は思う。
前述の通りハスミンは水を飲む。
たくさん運動(※=殺人)をしたから、飲む。なんと生き生きした行為だ!
しかも顔を真上に向けて、視聴者側に急所である喉を大きく晒して飲む。
フード理論的に言えば、おそらくこれは「正直不明者」とは到底言えない存在にあたるだろう。
生徒が「よく知っている」存在である担任教師、ハスミン。それに殲滅される恐怖。
例えばいつも挨拶をしてくれる朗らかな隣家の奥さまが、何の前触れもなく包丁で腹を刺してくるような。例えば10年もの歳月を共にした親友が、突然鉄パイプで頭を殴ってくるような。素性が知れているからこそのーー相手のすべてを知っているという思いこみによる、潜在的な隠れ蓑があるからこそのーーおぞましさを醸し出しているシーンなのだ。
◆サイコパス診断テスト◆
異常犯罪者特有の思考形態を分析し、それを心理テスト化したのがサイコパス診断テストである。
その質問項目のひとつで、『商品名の書かれていない自動販売機があったら、どの色の飲み物を買う?』というものがある。
一般的な回答は「飲んだことのある色」「何でもいい」というものらしいが、サイコパス者は「透明」と答える傾向があるそうだ。これは混合物を無意識に警戒するからとのこと。
この映画でも、ハスミンは無色透明な水を飲んでいた。他者を信用せず、混合物を警戒して選んだものだろうか。
◆人間であることの証明◆
水が必要であるということは、生命活動を行なっていることの証明。つまり幽霊ではない。またペットボトルを使って飲んでいるということは、ヒグマなどの獣でもない。血でも飲んでいてくれれば吸血鬼というファンタスティックな存在になってくれるのに、その希望も絶たれてしまう。
つまり、彼もまた血の通った人間のひとりにすぎないのである。
以上3点を、このシーンの怖さの理由として提示させていただいた。
どうだろうか。少しは僕の興奮が伝わっただろうか?
最後にこれだけ言わせていただこう。
この映画に対する総括だ。ひと言で表すのであれば、これ以外にはないだろう。
MAGNIFICENT
……意味はぜひ、映画で確認してほしい。
*映画の予告編動画:【https://m.youtube.com/watch?v=y_EvIQutvwM】
