終の毀れ刃 灰塵ノ巻(二) | tボーン式ブログ

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空が白んで来た。琉球からの荷船は卯ノ刻に着岸する。琉球船が常時、薩摩の湊に留まる事は無い。幕藩への配慮かに見える。
少林拳士の二人が、小走りに桜島を目の前にする磯へと現れた。
待ち受けていたのは、柳生十兵衛と薬丸兼陳である。
予期していたか、異人二人は慌てなかった。
「金碗龍。其方らが此より東へ向かう事、断じて罷り為らぬ。哀れで有るが、命を頂戴致す」
叫ぶ十兵衛の背後で、桜島がもくもくと煙を立上げ始めた。
「思イ違イヲ致スナ、十兵衛」
金碗龍も叫んだ。
「確カニ、我ラハ幕閣ノ屋台骨ヲ揺ルガセ、弱メル事ヲ目的二来タ。然レドモ、其ハ清ノ為二非ズ。コノ意味ガ判ルカ」
二人の和人は、押し黙っている。
「我ラハ国ノ為デ無ク、民ノ為二粟散辺土へ訪レタ。中華ノ民ハ倭ノ侍ヲ恐レテ居ル。何時シカ、再ビ海ヲ渡リ中原ヲ、半島ヲ、奪オウト欲スノデハト危惧スル。然レド来訪ノ後、其懸念ハ要ラヌト判断シタ」
すると、脇の拳士が叫ぶ。
「俺ハ未ダ、御前達ヲ信ジテハ居ラヌ」
金碗龍が諌め、努めて冷静に話した。
「倭ノ民ハ、中原ノ民ト同ジク、平和ヲ愛スト知ッタ。平和ヲ望ムナラバ、壊スベキデ無イ。願イガ通ジルノデ有ラバ、最早要ハ無イ。十兵衛、闘ウ理由ハ無クナッタノダ」
一呼吸置いて、十兵衛が返事した。
「其許の思い、ようく伝わった。然り乍ら、我らは私人に非ず。少なからず政事に係わっておる。其方らは間者で有り、刺客なのじゃ。幾人かを、殺害致してもおる。某も公儀の役目として、見逃す譯に参らぬ」
金碗龍は溜息を吐いた。
旋風が巻き起こり、灰が喉を刺激する。
「其に何より、拙者は御主と闘いたい」
十兵衛の開いた眼が妖しく揺らいだ。真の戦士の目で有る。感じ入った金碗龍も意を決した。
「良カロウ。デハ我等モ、愛スル祖国ト民ノ為二、御主ラト闘オウ」
吹き上がった季節風が、辺りを灰色に染めた。