小森はるかさんの文章から。


荒れたまちを見て、佐藤さんは緑が必要だといった。そしてトマトの種をまき、自らの手で井戸を掘って水を与えた。佐藤さんのトマトは、すくすくと成長し赤い実をつけた。泣きじゃくってばかりいたお客さんがトマトを口にすると、少し笑みがこぼれて頬を赤くしたという。その頃には、窓の外に見えるまちにも、たくさんの植物たちが芽吹き、地面は緑色で覆われていた。「緑が萌えると人は勇気づくでしょ。慰められるんだよ。だからたね屋は前向きでいられるのかもね。」と佐藤さんは笑っていた。でもこの緑は、たくさんの人が流した涙を吸って芽吹いた命の色だと思うよ、と優しく付け足した。