新刊の渡辺直己編の『日本批評大全』はおもしろい。その中に「日本文学史上の奇跡と称すべき女性作家」である一葉の日記の一部分が取りあげられている。以前『十三夜』を読んで記事を書いたとき、一葉という人は刃物のように鋭い人だという印象をもったが、想像以上の人であった。

「文だんの神よといふ」森鷗外の絶賛を『たけくらべ』が受けてみんなが喜んでくれているときにこう日記に書いている。彼女が亡くなる年に書かれたものである。


我れを訪(と)ふ人十人に九人まではたゞ女子(をなご)なりといふを喜びてもの珍しさに集(つど)ふ成けり、さればこそことなる事なき(注: 平凡な)反古紙(ほごがみ)作り出ても今清少よむらさきよとはやし立つる、誠は心なしのいかなる底意ありてともしらず、我をたゞ女子と斗(ばかり)見るよりのすさび。されば其(その)評のとり所なきこと、疵(きず)あれども見えずよき所ありてもいひ顕はすことなく、たゞ一葉はうまし、上手なり、余(よ)の女どもは更也、男も大かたはかうべを下(さ)ぐべきの技倆なり、たゞうまし、上手なりといふ斗(ばかり)その外にはいふ詞なきか、いふべき疵を見出さぬか、いとあやしき事ども也。


「その外にはいふ詞なきか」!!

まるで蓮實さんの記者会見である。すごい!