コンパクトについて、次の2つの命題をすでに証明した。
1) 距離空間 E がコンパクトならば、E の任意の無限点列は、接触値をもつ。つまり E がコンパクトならば、点列コンパクトである。
2) E が点列コンパクトならば、E は全有界かつ完備な距離空間である。
そこで今回の記事では、次の命題、
3) E が全有界かつ完備な距離空間ならば、E はコンパクトである。
を証明して円環を閉じたいと思う。3) が証明されれば、1), 2), 3) は同値な命題となる。
3) の証明の根幹部分は、「ボレル・ルベーグ (ハイネ・ボレル) の定理」の証明と同じである。
「ボレル・ルベーグの定理」の主張することは、「実数直線の部分集合の閉包(つまり閉集合)がコンパクトであるということは、有界であるということ」である。
元来、僕は「ボレル・ルベーグの定理」が大好き❤である。なぜかの説明は難しいが、喩えていうとコンビニでドラ焼きを買って食べようとしたら、エルデシュみたいな、おかしな風情の数字者が突然ヌッと現れて、こちらとしては、ドラ焼きを有限回パクパクしてお腹に入れてしまいたいのに、そのドラ焼きがコンパクトであることの証明をその数学者がし始めるような感じといったらいいだろうか。その背理法を使った「もし、そのドラ焼きを有限個では覆えない被覆があるとすると、…」という説明を聞きながらつい思い出してしまうのは、メロンの開集合の部分を食べていた子供の頃のことで、最初は勢いよくスプーンですくって食べていたのだが、最後の方はいったいどこまで食べたらいいのか迷ってしまって何回も僅かな部分をすくっていたら「お前はキリギリスか」と怒られたことである。
それでは、命題 3) の証明に移る。細かいところよりも区間収縮法が根幹にあり、収縮する区間から点を取ってコーシー列が作れるところが本質なのである。
【3) の証明】
距離空間 E は全有界であり、したがって E は有界であり、ということは E の直径 δ(E) は有限である。δ(E) を適当な定数(縮尺)で割って
δ(E) < 1
としても一般性を失わない。
背理法で証明するために、距離空間 E の開被覆
λ ∈ L → U[λ]
を考え、有限個の U[λ] をどう採っても、 E 全体 を覆えないと仮定する。
次のようにして帰納的に開球 B[n] の列を次のように定義する。
半径 1/2 で中心が E に含まれる開球で E の有限被覆を作る。その球の内部にある E の領域が 有限個の U[λ] で覆えない球を一つとり、それを B[1] とする。もし B[1] が存在しないとすると、有限個の U[λ] で E を被覆できることになり矛盾する。
同じようにして、半径 (1/2)^ n で中心が E に含まれる開球で B[n - 1] に含まれる E の領域の有限被覆を作る。その球の内から E の領域が 有限個のU[λ] で覆えないものを 一つとり、B[n] とする。もしB[n] が存在しないとすると、有限個の U[λ] で B[n -1] に含まれる E の領域が被覆できることになり B[n - 1] の取り方に矛盾する。
B[n] の中心点を x[n] とすると, B[n -1]と B[n] は必ず共通な E の点をもつので、それを m とすると
d(x[n - 1], x[n])
≦ d(x[n - 1], m) + d(x[n], m)
< (1/2)^(n-1) + (1/2)^n
< (1/2)^(n - 2)
となる。
そうすると、n ≦ p < q について
d(x[p], x[q])
≦ d(x[p], x[p+1]) + … + d(x[q - 1], x[q])
< (1/2)^(p - 1) + … + (1/2)^(q - 2)
< (1/2)^(n - 2)
となるので、点列 (x[n] )はコーシー列となり, 距離空間 E は完備であることから、極限値 a を E でもつ。そうすると、a は開被覆 U[λ] のどれかに含まれることになるので、それを U[λ_0] とする。U[λ_0] は開集合なので、ある α > 0 が存在して、
B(a; α) ⊂ U[λ_0]
となる。α は x [n] の極限値なので、
d(a, x[k]) < α/2
で、
(1/2)^k < α/2
となる整数 k は存在し、したがって
B[k] ⊂ B(a; α) ⊂ U[λ_0]
そうすると、B[k] は、開被覆 U[λ_0] 一つで覆われることになって、矛盾する。//