距離空間で学ぶべき重要な基礎概念は、「完備」「コンパクト」「連結」の三つと言って良いと思う。この中で分かりにくいと良く言われるのが、「コンパクト」であるが、これはコンパクトの定義が数学の他の領域でも適用できるよう一般性を考えて開集合という位相概念だけを使って定義しているため突飛に見えるだけの話である。すでに、ここまでで閉集合は点列の極限で閉じているということは理解している訳であり、コンパクトはその延長上すぐ近くにある。コンパクト集合では、任意の(無限)点列がその集合上で接触値を持ち、接触値が一つなら極限を持つ。また極限は無限大はでない(有界だから)。したがって、最大値と最小値が存在する。集合 A がコンパクトならば連続写像の像 f(A) もコンパクトである。だから、コンパクトだと無限のややこしい話が軽減される結構な「準有限」の概念なのである。分かりにくいのは、そのことと「集合をカバーする任意の開被覆において、その内の有限個の被覆だけでも集合をカバーできる」というコンパクトの定義がどう繋がるかというところだけである。

 
先走るのはこの辺にして、次に進む前に定義を付け足してから、「完備」から話を進める。
 
まず、定義しないで使っていた「族」であるが、一番一般的にいえば、標識となる集合 Lから集合X への写像である。その写像は、 λ ∈ L, x ∈ X として
 
λ → x[λ]
 
のことである。「族」は日本語だが、英語では集合の要素の family というので「家族」であるが、まあどちらも「族」がついている。自然数などを L としてとったのが、数列や点列であり、この場合は「列」という。気をつけないといけないのは、かりに集合 X の要素が一つだけのときだって、 x[λ] は複数あったって無限にあったって構わないということである。ただし、その場合写像の像(集合である)の要素は一つだけで元の集合に一致する。
 
集合 Xの部分集合の族を
 
λ ∈ L → A[λ]
 
としたとき、L が自然数 N だったりすると無限個の列の要素があるので、合併や共通分を
 
[λ ∈ L] A[λ]
 
 [λ ∈ L] A[λ]
 
と書く約束になっている。
 
それで、やっと被覆(covering) の定義であるが、
 
B が X の部分集合で、X の部分集合族 
 
λ ∈ L → A[λ]
 
が、
 
B ⊂ [λ ∈ L] A[λ]
 
のとき、[λ ∈ L] A[λ] を B の「被覆」と呼ぶ。
 
 
次に集合同士の「距離」の定義だが、
 
距離空間の集合 A, B との距離を「下限」を inf と書いて、
 
d(A, B) = inf [x ∈ A, y ∈ B] d(x, y)
 
として定義する。
 
※ 何回も書くが「最大/最小」と「上限/下限」を少なくとも数学では使い分けること。
 
次に距離空間の集合Aの「直径」の定義であるが、上限を sup と書いて、
 
δ(A) =  sup [x ∈ A, y ∈ A] d(x, y)
 
である。一点しかない集合の場合は δ(A) = 0 である。また飛び地がある場合は、飛び地同士にわたる距離になるので、「直径」という語感とは異なる。
 
それで「直径」が有限のときが 「有界集合」である。
 
定義だけで疲れたので、この記事はこれで終了する。