1951年、キング・ヴィダー監督。原題は、"Lightning Strikes Twice"。


50年代の翳りのある映画を久しぶりに見たような気がする。


アメリカ映画にとって1951年の前後がどんな年だったか、少し復習しておく。1948年には、米国最高裁のいわゆる「パラマウント判決」で、映画製作と配給の分離が命じられ、ハリウッド映画のビジネス・モデルであった「スタジオ・システム」が崩壊する。また、非米活動にかかわったとされる「ハリウッド10」と呼ばれる人たちが解雇され、ハリウッド・ブラックリストの作成が本格化するのもこの年である。1950年には、テレビ受像器の米国家庭普及率は20パーセント近くに達し、テレビは以降、市場本格普及期に入る。つまり、「テレビ」「独占禁止法」「赤狩り」といういかにも「アメリカ」というべきものものから、自国の最も誇るべき文化であるハリウッド映画は深刻な打撃を被り、立ち上がれない痛手を負ったのである。


1952年、映画の興行成績と製作本数の両方とも過去史上最低を記録し、職を失った映画人たちは、テレビに職を求めるようになる。この映画が製作されたワーナー・ブラザーズでは、1945年には120名いた専属俳優は、51年には40名を下回っている。映画産業全体でも80万人近くいた産業人口は、一挙に60万人近くまで減少している。MGMのルイス・B・メーヤーは、ドーリ・シャーリとの対立からMGMを去り、シネラマとテレビに出資をする。二十世紀フォックスのダリル・F・ザナックは、シネマスコープの導入を52年に決定する。映画界は、画面の「大型化」と「見世物化」により、苦境を乗り越えようとする動きが、このころから、本格化するのである。また、51年のアカデミー賞は、ヴィンセント・ミネリの『巴里のアメリカ人』であり、翌年の52年は、監督賞がジョン・フォードの『静かなる男』、作品賞がセシル・B・デミルの『地上最大のショー』で、サイレント時代を経験した巨匠の二人が受賞している。しかし、53年は、戦後世代のフレッド・ジンネマンの『地上より永遠に』が受賞しており、サイレント期から活躍していた監督たちの世代交代も本格化しているのである。


この時代の「暗さ」が、この作品にも明らかに反映している。まず、出演しているマーセデス・マッケンブリッジは女優で有名というよりも、後に『エクソシスト』で悪魔が憑依した少女の声により、カルト的な人気があった人である。彼女は、リパブリック・ピクチャーズが製作した50年代を代表する映画である、ニコラス・レイ監督の『大砂塵』でも、あの姥桜のようなジョーン・クロフォードといがみあうのである。


※ 備考: 機会があるたびに書くが『大砂塵』のDVD化はいつ?


主役の男優をつとめているリチャード・トッドだって、30年代、40年代のハリウッド映画を見慣れている者にとっては、こんな暗い眼をした陰がある人が主役をやってていいのかと思う。だいたい、ストーリーからして妻の殺害容疑の嫌疑で死刑判決を受けたリチャード・ドットが、マーセデス・マッケンブリッジの働きかけで無罪にはなるものの、周囲からは冷たい眼で見られるという内容である。


ルース・ロマンに関しては、ちょっとほっとする。彼女がもっとも活躍したのは、シャーリ・ドーリに抜擢された後、ワーナーと契約した50年代である。ルース・ロマンは50年代を代表する女優の一人といってよいと思う。この作品公開と同じ51年には、すでに紹介したアルフレッド・ヒッチコック監督の『見知らぬ乗客』(原作は、パトリシア・ハイスミス)に出演しているからおなじみであろう。


※ 少し、おもしろいと思ったのは、『見知らぬ乗客』の誰もが覚えている冒頭の足だけを見せる演出とは異なるものの、この映画でもルース・ロマンの足を強調した場面がたくさんあることである。また、この映画のシーンは、明らかにいくつかのヒッチコック作品を思い出させところがある。


50年代の彼女の出演作品としては、他にニコラス・レイの『にがい米』なんかがあげられる。この時期のワーナーの西部劇にも数多く出演していて、この映画でも、彼女が乗馬している姿を少しだけ見ることができる。


キング・ヴィダーは、あまりいい出来ではない脚本にもかかわらず、素晴らしい演出をしており、作品を見ごたえあるものにしている。勝手に「ヴィダー主題」と名付けているものが、この作品でも下の写真のシーンのように見られる(中央の崖から落ちそうなのはルース・ロマン、画面奥に足を開いてたっているのは、リチャード・トッド)。なにも、あんな危ない崖でキスしなくてもいいじゃないかと思うのだが、ヴィダーは自らの主題に忠実に、そこでルース・ロマンとリチャード・トッドをキスさせるのである。


50年代のハリウッド映画は、視線劇の側面がある。視線劇は生身の人間同士でやるとは限らない。この映画では、鏡に映った絵との視線劇があり、それがおもしろかった。






CLIP: Lightning Strikes Twice (TCM)