1937年、キング・ヴィダー監督。原題は、”Stella Dallas"。

メロドラマの中のメロドラマというべき作品なので、詳しい説明は不要であると思う。サイレントの時代、ヘンリー・キングが監督した同作のリメークである。サイレン作品についての話であるが淀川長治さんの話が傑作である。少し引用させていただく。

あくる日学校行った時に、「淀川、お前は映画ばっかり観てちっとも勉強せんな。算数もっと勉強しろ」と言われたんですね。で、僕はその時「それは無理だ」言ったんですね。「無理だなんて、生意気言うな」って言った時に、「先生、そんな事言うけどね、いっぺん今やっている『ステラ・ダラス』ご覧なさいよ」って言ったんですね。そうしたら本当に3人の先生、若かったんだね、中学の先生、3人揃ってその晩に『ステラ・ダラス』を観に行ったんですね。可愛らしいね、先生の気持がね。で、あくる日教室行ったら、ワーワーワーワー言っているの。「どうしたの」言っったら、「良い映画だ、すごいなー。あの子役のロイス・モラン初めから、ずっと終わりまであの子が変わらないで演ったの?15,6位であの女の子が二十歳になるまで演ったの?一人で演ったの?」「当たり前ですよ、女優だもの」と言ったけど「いいなー」って言ったから、「そんなんなら、先生、こんなに良い映画をみんなが帽子隠して、こわがって映画館に入るのを大間違いで、堂々と行かして下さいよ」と言ったら、それから三中は毎月一回、堂々と映画館借りて、午前中に映画を観に行く様になりました。『ステラ・ダラス』がもとでした。

というぐらい、いいお話なのであるが、現在では受け入れられない人も多いだろう。どちらにしても、ヴィダーの演出は健在であり、傑作でなくても普通の作品として映画を仕上げる腕は本当にしっかりしており、明らかな失敗作はいまのところないと思う。リメーク版は、母親役はバーバラ・スタンウィック、娘役はアン・シャーリーである。アン・シャーリーについては、フォードの『周遊する蒸気船』のときにすでに説明した。この作品は、日本では特に人気があったらしく、大映の三益愛子主演による「母ものシリーズ」はこの作品の翻案がもとになっているといわれる。未見だが、この作品が公開された同じ年、1937年にも、すでに山本薩夫監督により『母の曲』という翻案映画が作られており、このときの娘役は原節子である。

下のクリップはラストの部分で、バーバラ・スタンウィックが演じる母親が娘の結婚式にくるとわかっていて、すべてを了解している義理の母親がカーテンを開けさせるところから始まる。ルドルフ・マテの撮影がバーバラ・スタンウィックの顔をとらえる、すばらしい雨のシーンだと思う。

Clip: Stella Dallas (YouTube)