1932年、キング・ヴィダー監督。原題は、”Cynara"。

妻が外国旅行中に、夫がふとしたきっかけで若い女と知り合う。夫である男のほうは、軽い遊びのつもりだったが、若い女は男に夢中になってしまう。男はその若い女に別れようと手紙を書くが、女は自殺してしまう。男は、法的罪にこそ問われなかったが、良心の呵責に耐えかねて、妻に許しを請うて南アフリカへと船で旅立とうとする。男を乗せた船が出航しようとしたとき、船上に夫を許した妻がいる。

以上、ストーリーだけ書けば、似たような話をいくらでも見つけ出せそうな、うんざりするメロドラマである。もし、このスートーリーで、思い入れたっぷりの演技を見せられたら、途中で映画館を出るだろう。しかし、これも『チャンプ』と同じで、男をロナルド・コールマンがとても抑えて演じるので、なんとか見られるのである。こんな脚本でも、キング・ヴィダーはしっかりと演出していてさすがである。同じうんざりするストーリーなら、せめてヴィダーが演出したものを見ようという気に充分させる。

この映画の中で、チャップリンの映画が出てくるが、この作品は簡単で、1918年の『犬の生活』である。

A Dog's Life (YouTube)


コールマンの妻の役を演じているのは、ケイ・フランシス。1932年公開された映画に彼女は六本も出演しており、まさに絶頂期である。六本とは、まず、この作品。それから、エルンスト・ルビッチ監督の『極楽特急』。さらに、ウィリアム・ディターレ監督の作品に2本出ており、『男子入用』『宝石泥棒』である。あとは、ティ・ガーネットの『限りなき旅』と アーチ・メイヨーの日本未公開の "Street of Women" である。前記作品のうち、ウィリアム・ディターレ監督の2本は、日本では販売されていないが、ワーナーが出している ”Forbidden Hollywood"  というタイトルのついたプレ・コード時代のハリウッド映画を集めたDVDボックスの第4集に収録されている。『男子入用』のクリップはYouTube にあるので、下に紹介しておく(ただし、足フェチの人は刺激が強すぎるので見ない方がいいかもしれない)。

CLIP: Man Wanted (YouTube)

最後に、映画のタイトルである『シナラ』の原題である "Cynara" を淀川さんは「サイナラ」と読んだらしいが、映画の最初のクレジットあるように、アーネスト・ダウスンの詩からの引用である。詩の原文と訳は下のURLを参考にしてほしい。『風と共に去りぬ』の原題、"Gone With the Wind" も、この詩の三節目から引用されてつけられたものである。暇な人は、この Cynara  と、アーティチョークの秘かな関係を調べてみるのもおもしろいかもしれない。

http://ban-chapter2.blogspot.jp/2008/06/madder-music-and-stronger-wine.html


残念ながら、『シナラ』の動画は YouTube にはみつからないので、ケイ・フランシスとロナルド・コールマンが共演している1930年の "Raffles" のクリップを以下にあげておく。

CLIP: Raffles (YouTube)