1931年、キング・ヴィダー監督。原題は、"The Champ"。

元ボクシングの世界王者であったが、今ではすっかり落ちぶれてしまい、妻にもとうに愛想をつかされ去られてしまった男をウォーレス・ビアリーが演じ、その男の息子で、なにかと父親を気遣う子供を当時九歳だったジャッキー・クーパーが演じている。アイリーン・リッチが演じる母親が滞在しているホテルを、ジャッキー・クーパーが父親のウォーレス・ビアリーにうながされて訪ねて、面会をホテルの部屋の前で待っているシーンが下のクリップのシーンである。このクリップの最後の画面で、瓦の屋根を登ったクーパーをロングでとらえ、手前に車の中で待つ父親を配した構図は、いかにもキング・ヴィダーらしく、はっとさせる。そのような人物の配置の関係は、『ビッグ・パレード』の最後のシーンでも、すでに見ているからだ。

どう見てもハリウッド風の二枚目には見えないウォーレス・ビアリーを主役にもってきたことと、ヴィダーの節度ある演出が、このありがちな心理的メロドラマをかろうじて品のあるものに保っていると思う。ボクシングの試合のシーンでは、後の時代では当たり前になったスローモーションなど一切なく、逆に試合の流れを駒落としのようにして加速して見せているところが好ましい。確実に人を泣かせるストーリーを語るときに必要な演出における最低限の慎みをキング・ヴィダーはもっている。


Clip: The Champ (YouTube)