1927年、フランク・ボゼージ監督。原題は、”’7th Heaven"。

メロドラマの巨匠、フランク・ボゼージだ!素直にハンカチを用意しよう。泣くのに抵抗することは無駄である。名優 ジャネット・ゲイナーは可憐で、愛らしい。チャールズ・ファレルはとてもかっこ良い。しかも、フランク・ボゼージが絶妙の演出でくすぐるのだ。この最強のトリオにいかなる抵抗も不可能である。ジャネット・ゲイナーとチャールズ・ファレルが共演する作品がこの後、11作品も作られたことからも当時いかに人気があったかが窺える(このコンビのDVDボックスを出して欲しい。『第七天国』はシリーズの第1作目でしかなく、『第七天国』しか取りあげないのは、非常に偏っている)。

現存する小津作品の中で最も古い『学生ロマンス 若き日』(1929) で、下宿部屋にこの作品のポスターが貼ってあったり、「質屋」を「第7天国」と洒落たりするばかりではなく、小津作品には珍しく俯瞰撮影が見られたり、移動撮影があったりする疑問は、この作品を見れば氷解するであろう。当時26歳だった小津安二郎もこの作品には抵抗できなかった一人らしい。なお、英語版のwikipedia が日本語版よりも遙かに優れているのと思うのは、たとえば、”7th Heaven" の項目の説明として、この小津の作品の student Watanabe の下宿部屋にポスターが貼られていることまでが、きちんと記述されているのを見るような場合である。ところが日本語版のwikipedia には、小津の『学生ロマンス 若き日』の記述にすら『第七天国』の説明は一切ない。ポスターは『若き日』のそれこそ至るところで確認でき、物語上でも非常に重要な役割をしている。たとえば下のリンクで45分20秒すぎぐらいを確認されたい。また、この直前には「上を向け、上を」という台詞(字幕)があるが、これも『第七天国』からの引用であろう。

学生ロマンス 若き日 (YouTube)

この作品は、第一回アカデミー賞の監督賞、主演女優賞(この作品と『サンライズ』『街の天使』の3作のジャネット・ゲイナーの演技に対して)、脚本賞の3部門を受賞している。『街の天使』は、ボゼージ監督でチャールズ・ファレルとの2作目の共演作である(舞台は本作のパリからナポリに変わっている)。また、本作はキネマ旬報のベストテンでも1位である。ジェネット・ゲイナーは、1906年生まれで、主演女優賞を獲得した最年少記録は60年近く更新されなかった。なお、このフォックス作品は興行的にも大成功だった。また、フォックスには、当時ムルナウがいて、ボゼージ監督に多大の影響を与えたことは重要である。本作のセットや『街の女』などの他の作品も含めてドイツ表現主義の影響ははっきり確認できる。

この作品の7階の屋根裏部屋に至るらせん階段を二人が上っていくシーンで、珍しい垂直方向の移動撮影がある。正確には1階の奥行き方向の移動があって、それから7階までの垂直方向への移動がワンカットになっているが、この撮影のために特別のエレベータが建築されたのである。奥行き方向は、カメラをローブで引っ張ってエレベータに乗せ、それからエレベータを上昇させたというわけだ。なお、イギリスのイーリング・スタジオの1951年の作品『ラベンダー・ヒル・モッブ』で、アレック・ギネスがエッフェル塔の螺旋階段を上から下まで駆け降りるのを撮影した垂直方向の長い移動撮影がある。YouTube を探したてみたが、該当シーンは見当たらない。『ラベンダー・ヒル・モッブ』はチャールズ・クライトン監督の作品だが、結構面白いので、DVDを確認されたい。

7th Heaven (YouTube)