ちょっと前に、「新潮45」の付録についていたDVDに、原節子が出演した内田叶夢監督の「生命の冠」が収録された。この作品は、1936年の作品で『河内山宗俊』と同じ年の公開だが、「河内山宗俊」の方が公開時期は早い。つまり、現存する映画の中では最も若い15歳の原節子を目にすることができる貴重な作品である。しかも作品は素晴らしい。彼女は 15 歳で映画デビューしたから、この映画はデビューして1年ぐらいの作品になる。山中貞雄は、可憐なヒロインを捜して現代劇の中から原節子を見つけてきた。彼女はこの作品で注目を浴び日独合作映画「新しき土」(1937)でヒロインを演じることなる。作品としては、ジョン・フォードの『三悪人』の影響もある。
 

 
この映画には美しい雪のシーンがある。


弟の借金のために原節子が自分の身を売ることを決意する。彼女は、じっとうつむいて畳に座っている。そこへ子供が紙風船を買いにくる。
 原節子の弟、広太郎が紙風船を子供のために取ってやる。子供は怪訝そうに原節子の方をなにがあったのかと見つめる。戸口にいる子供の背後でちらちらとぼたん雪が降り始める。


原節子が弟を平手打ちする。子供が驚く。雪が少し強くなっていることがわかる。原節子は立ち上がって、奥の縁側の方に向って障子に寄り掛かかる。原節子のクローズアップ。その背景では、雪がいっそう強くなっている。彼女は指で目頭を押さえる。


家の前の路地を紙風船で遊びながら去っていく子供を背後から捉えたロングショット。いまや雪が降りしきっている。


 
再び縁側の原節子のショット。今度はフルショットで捉えている。手前側には弟が畳の上に座りうなだれている。


雪が降る路地のショット。子供はもういない。


オーバーラップで雪のやんだ路地のショット。地面には雪が積もっている。時間経過。


戸口から原節子が出てくる。原節子がその雪の上を子供の歩いて行ったのと同じ方向にうなだれながら、自分の身を売るために去っていく。


山中貞雄、27歳の作品。信じられない。