
戦争に負けたから堕ちるのではないのだ。
人間だから堕ちるのであり、生きているから堕ちるだけだ。
だが人間は永遠に堕ちぬくことはできないだろう。
なぜなら人間の心は苦難に対して鋼鉄の如くでは有り得ない。
人間は可憐であり脆弱(ぜいじゃく)であり、それ故愚かなものであるが、堕ちぬくためには弱すぎる。
人間は結局処女を刺殺せずにはいられず、武士道をあみださずにはいられず、天皇を担ぎださずにはいられなくなるであろう。
だが他人の処女でなしに自分自身の処女を刺殺し、自分自身の武士道、自分自身の天皇をあみだすためには、人は正しく堕ちる道を堕ちきることが必要なのだ。
そして人の如くに日本も亦堕ちることが必要であろう。
堕ちる道を堕ちきることによって、自分自身を発見し、救わなければならない。
政治による救いなどは上皮だけの愚にもつかない物である。
坂口安吾
自分の言葉をこんなに隅々にまで行き届かせられる世界に近づきたい。
燃える闇。
人間ておもしろい。