学生時代の話。
午前零時も過ぎたころ。
「不二屋のミスターハムレットが食べたい」
本当はお腹が空いたんじゃなく、なんだか遊び足りないような、
そんな軽い飢餓感に突き動かされて、
出し抜けにそんなことを口にしてみる。
そうやって時々
朝4時まで営業しているバイパス沿いのファミレスへ、
彼氏の車で出掛けたものでした。
こんなわがままを言ったりしたんだよね。
しかも、それを聞いてくれてたんだよね、あの頃は。
今じゃ信じられないけど・・・
(あ、でも「アイス食べたい」はGW中にもやったか、夜中に買ってきてくれたんだった)
これもそんな感じで出掛けたある夜中の話。
案内されたテーブルの斜め隣に、
小学校の4,5年と思しき女の子が
ひとりで座っていました。
夜中に子供がというのだけでも目を引きますが、
それとなく伺っていても
連れの大人がトイレなどから戻ってくるという様子もなく、
こんな時間にひとりきりでどうしたのかなと、気になりました。
いえ、実はそれよりも何よりも目を引いたのは、
彼女の前のテーブルの異常さ。
その女の子の前には、スィーツのお皿が隙間なく並べられていたのです。
食べかけのパフェに、何種類ものケーキ、ありとあらゆるデザート類の数々、
どれもちょっとずつ口を付けたあとがあります。
溶けたアイスクリームからは時間の経過さえうかがい知れます。
女の子の顔はと言えば、全くの無表情。
そこには、うれしさもかなしさもさみしさも、一切の感情を読み取ることの出来ない
無の表情だけが浮かんでいました。
服装は、いたって普通の(変な言い方ですが派手でも質素でもない)格好でした。
気になりますよね?
気になってつい彼女の方を見てしまうのですが、
彼女に対して、どんな感情を寄せたらいいのか皆目見当はつかず…
(かわいそうにもうらやましいも大丈夫かなもどれもしっくり来ない風情)
人って(少なくとも自分は)、街で見かけた人などに対して
無意識裡に相手の事情や関係性なんかを想像したり読み取ったり、
そんな作業をしてるようなところがあるようです。
普段はそんな自覚もないけど、こんな風に想像からはみ出るような事態に遭遇すると、
あれ?どういうことだろうって落ち着かない気分になって、
そうなって初めて自分がそんなことを考えていたんだと自覚する、みたいな。
(何言ってんだかわからないね)
自分がそのとき何を頼んだかさえ覚えていません。
ただ、その子が表情を変えずにウェイトレスを呼んだことははっきりおぼえています。
あぁ、さすがにもうお腹いっぱいだから帰るのかなと思って見ていたら、
メニューを開いて、なにやら注文している様子。
すでにこれで何度目かのオーダーなのでしょう、
若いウェイトレスも特に驚くふうでもなく普通に応対し、
数分後には新たにホットケーキが彼女の前に追加されました。
そうやって1時間も1時間半も過ぎたころ、
彼女のもとに女の人がやってきました。
母親というにはちょっと年齢が高く、祖母にしたら若そうかなという感じの
やはり普通の、どちらかといえば地味目の身なりの人でした。
その女性も無表情で女の子に声をかけ、
女の子もやっぱり無表情なまま無言でそれに応え、
ふたり無表情で賑やかなテーブルの上を一瞥した後、
静かに連れ立って行きました。
それだけの話です。
結局どんな事情があったのでしょう。
そんなことは知るべくもなく。
あるいは事情もへったくれもないのかも知れません。
ただ、甘い物の醸し出す思わず微笑んでしまうようなワクワク感・幸福感と
それを前にした登場人物の沈むような静けさとの対比があまりにも鮮烈で、
今でもなんとなく忘れられない光景です。