ほんとは別にラブではないけど、語呂がいいのでつい・・ね。
「町長選挙」 奥田英朗
「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」に続く、伊良部シリーズ第3弾。
文庫化に伴い購入(つまり読んだのちょっと前)。
精神科医・伊良部。
今日も彼の診察室に「患者」が訪れる。
丸丸と太った色白の風体、徹底的にスポイルされた子供のような言動。
私のイメージでは、三谷幸喜の醸し出す雰囲気
(全身から滲み出るいいとこのお坊ちゃん感と「持てる者」のみが持つ余裕)に
田口浩正のルックスをミックスした感じ。
でも、この名前を付けたからには、奥田氏的には
あの(ピッチャーの)伊良部のイメージなのかも。
ついでに言っておくと、マユミちゃんは、舞台衣装姿を見ちゃってから
サトエリのイメージが定着してしまっています(悪くない)。
診察やカウンセリングといった行為とは程遠い
伊良部の人を食ったような振る舞いに、
「患者」は、あるいは戸惑い、あるいは腹を立て、
2度と来るものかという思いと共に診察室を後にする。
だが・・・
いつだって伊良部は治療らしい治療をしているとは思えない。
患者の真剣な悩みにも親身なそぶりすら(ほとんど)見せない。
毎回ハチャメチャな「治療(?)」が繰り広がられ、
最後は大団円というパターンをきちんと踏襲しているので、
安心して読めます。
このシリーズの魅力の一つに、患者の悩みがとてもリアルで生々しくて、
ともすれば自分の(あるいは周囲の誰誰の)それとして感じられることが
挙げられるように思います。
それは、人から見ればほんの些細なことだったりするのだけれど、
朽木のとげのように、いったん心に刺さったらなかなかすぅっときれいには抜けない、
気にしないようにと思えば思うほどどうしても頭のどこか片隅を占領して離れない、
そんな種類の悩み。
神経症的なまでに過剰に肥大した自我を抱え込んだ悩める「患者」に
感情移入しながら読み進める私たちの心まで
伊良部は鼻くそと共に受け流し、そして、知らない間に
患者から、読み手から、余分な「何か」を取り去ってくれるのです。
そのラストの解放感。爽快感。このスッキリはくせになります。
と、ここまではシリーズ全体についてのこと。
第3弾の「町長選挙」は、ちょっと印象が違いました。
その最大の理由は、全4篇中3篇で患者役として実在の人物を
容易に想起してしまうような設定(社会的ポジションなど)になっていること。
(「オーナー」はナベツネ、「アンポンマン」はホリエモン、「カリスマ稼業」は黒木瞳)
彼らの姿が自然に頭に浮かんでしまって、読んでいて何だか勝手が違いました。
(もちろん、この方々がここの登場人物のようなキャラクターだと思ってるわけではないけれど)
架空の人物に自己を投影するという今までの読み方はいったん置いておいて。
ここにおいて描かれるのは、特定の人物がともすれば陥りがちの特殊な悩みか、
社会の限定された場所に生じるであろうひずみか・・
いずれ現代社会に内包される病んだ部分に焦点を当てているという点では
変わりないってことでしょうか。
と、そんな戸惑いがありつつも、まぁ、楽しく読めました。
個人的には本書のタイトルにもなっている、最後の「町長選挙」が一番好きです。
ところで、伊良部のキャラはどうしても私に榎木津礼二郎(京極夏彦 百鬼夜行シリーズ)を
思い出させます。育ちがよいところとか、言動とかね。
でも、それより何より彼らが「天職」についているというところが最大の共通点かな。
榎木津が生まれながらの探偵であり、他の探偵とは全く違った手法で
その職務を全うしている(してるかな?)のと同様に、
伊良部は彼にしかできないやり方で患者の心に巣食う憑き物を落とします。
(あれ、憑き物落としなら京極堂じゃないか、じゃあ、榎木津+京極堂ってこと?)
とまれ、まさに天性の精神科医。
伊良部の場合、彼がどこまで意図してるのか、全く何も考えてないのか、
読んでいてそのあたりがわからないという読み手の混乱までが
筆者の狙いなのでしょうか。
(私はこの感じはちょっと落ち着かないのですが・・・)
って、疑問のままこのシリーズについては終わります。
(だってわかんないもの)
ついでと言ってはあれですが、ここで
「最悪」 奥田英朗
私、「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」と読んだあと、
流れで氏の代表作の一つと聞く「最悪」を読みました(ずいぶん前のことですが)。
これにはやられました。流れで読んじゃだめでした。
丹念な筆致で登場人物の存在をリアルに描き出しておいて、
彼らを抗いがたい大きな流れへと追いやるその緻密なプロット。
読んだら引きずります。
引きずり系は心の準備がいるのに無防備に入ってしまったので、大失敗でした。
でも、作品としては本当に面白かったです。
私の中では実は伊良部シリーズよりよかったりします。
- 最悪 (講談社文庫)/奥田 英朗
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これ、先月から下書き途中で放り出していたので、書きあげられてスッキリ。
