【りくりょくきょうしん】
全員の力を結集し、一致協力して任務に当たること。

◇  ◇  ◇

久しぶりに『NHKのど自慢』を観た。いや、まともに観たのは初めてかもしれない……モノゴコロがついてからは。

のど自慢というと、老若男女が鐘の音目指してなりふり構わず歌い踊る、ちょっと微笑ましいイベントかと思っていた。しかしながら、実際にはそんな生ヌルいものではなく、大欲を貪る有象無象の華麗なる宴だったのである。

まずは司会を務めるNHKのアナウンサーに注目する。のど自慢というものは、数十年と続く伝統ある番組である。となれば言うに及ばず、完成された段取りがあるだろう。彼はその段取りと寸分違わぬ美しい仕上がりになるよう、獣のような目つきで素人出演者をコントロールしている。段取りからの逸脱は、イコール彼らの降格、場合によっては失職を意味するだろうからそれも当然だろうが、異様な物腰の柔らかさとのギャップが恐ろしい。

次にゲスト審査員の歌手先生たち。「○○さんの大ファンです。」とのたまう素人出演者が現れると、過剰なスキンシップでそれを歓迎するのだが、目は一切笑っていない。恐らくは前述の通り、完璧な段取りの遂行に神経をとがらせ、本来彼らが持つフレンドリーな人格を押し殺しているからだろう。

彼らはまた、最後に必ず自分の曲を歌うのだが、歌い上げた後に一瞬見せる「どやっ」という顔は、プロとしてのプライドを素人出演者に浴びせかけているように見える。その大人げなさに戦慄すら覚える。

そして客席。そのほとんどは素人出演者の親戚縁者応援団が占めている。彼らは必ずといって良いほどに横断幕を使って応援しているのだが、どの位置でそれを展開できるのかは非常に重要であろう。恐らくは入場時に激しいポジション争いを繰り広げていると思われる。当然表面化することは無いが、刃傷沙汰が起こっていても何ら不思議ではない。

最後にもちろん素人出演者。彼らは自分の出番以外は、舞台後方で楽しそうに手拍子や踊りで出演者を盛り上げてくれる。それはもうウソみたいに楽しそうなのだが、自分とキャラクターが被っている出演者の時に垣間見せる殺気立った視線は見逃せない。

また、自信満々に陶酔しきって歌い上げたスナック経営のママが、2発しか鳴らさなかった鐘担当者を、修羅のような形相で睨み付ることもある。

他にも、段取り無視、切腹覚悟で客席に必要以上のアピールをする痛い中年男性の行く末や、会話が全く噛み合わず司会者をイラつかせるお年寄りなど、注目ポイントは枚挙にイトマがない。

“のど自慢”などというノンキな文字の裏側には、実はこんな恐ろしい世界が繰り広げられていたのである。

平穏無事なあなたの日常に、地獄絵図を1枚加えてみてはいかがだろうか。


↓もし面白かったらポチっていただけると嬉しいです。
にほんブログ村 本ブログ 編集・ライター・書店員へ
にほんブログ村