【がんちゅうのくぎ】
邪魔者、いやなやつ、憎らしい人、障害物。

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一方の手でもう一方のコブシを握りこみ、関節をポキポキ鳴らしながら相手を威嚇する行為が絶えて久しい。

『北斗の拳』や『ドラゴンボール』などのアニメや、ちょっとしたバイオレンス込みのドラマを最後に、少なくとも私は20年以上見ておらず、もはやその存在すら忘れていた。

ところがつい先日、その存在を思い出させてくれる人物に出会った。

とある電車の少し混雑した車内にて、大股を開いて長いすに座るやや大柄で薄毛の男がいた。目の前で繰り広げられるその勝手気侭な振る舞いに、モラルというものを持ち合わせていないのかな、などと思い、同時に私はそれを口に出してしまったらしい。男が突然ボソボソと何かを唱えながら、例の指ポキポキを始めたのである。

当然、初めはその意味不明な行為を理解できるわけもなく、単に薄気味悪いオッサンやなあ……などと思っていたのだが、よくよく聞いてみると、その呪文は「うるさいアホ!ボケ!△※○◆×!」といった、こちらに向けた罵詈雑言だったのである。

なるほど。その指ポキポキでこちらを威嚇していたのか……。

その後、電車を降りるまでの私は、必死に笑いをこらえていた。それは言うまでもないことか。