帰ってきた旅猫・メイの奇跡 その2の8.「雨の日の猫」 | うちには、天使がいます。

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ピアノ弾き語り落ちこぼれシンガー・うたうやまねこと、そのパートナーゆかさん、そして寄り目のみけねこメイさんの、命の記録です。


 

・登場人物
<メイ>
2001年の5月にへその緒つきで捨てられていたところをやまねこと出会い、
それからずっといっしょに暮している、寄り目のみけねこ。
車でやまねこと旅をする「旅猫」に育ち、
2004年には西伊豆での1週間のサバイバルから生還しました。
<やまねこ>
ライブハウスでピアノ弾き語りをする歌い手。
2009年当時、ふたたび一時的に失業中。


・前回までのお話
2009年7月。
失業してしまったやまねこは「気分転換」と称して、メイをつれて車で北海道へ。
ゆっくりゆっくり、海岸線をたどりながら、知床のキャンプ場へ到着しました。
久しぶりにテントを張り、メイをテントに残して晩ごはんの準備をして、
テントに戻ると、メイの姿が忽然と消えていました。
それから4日。猫を目撃した、声を聴いた気がする、という情報はありましたが、
メイの姿を見つけることはできず、次第に焦りが募ります。

(なお、登場人物の名前は、すべて仮名です)


知床6日め、7月19日。
この日も朝から雨が降りました。
もともと精神状態が天候に左右されやすいやまねこは、
「頼むからもうかんべんして。気が滅入る」と心でつぶやきました。
こんな天気では、メイも隠れている場所から外に出る気分になれないでしょう。

それでも車から出て傘をさし、まずテントへ行って中をチェックして、
ごはんも減っていなければトイレも触れた形跡がないのを確認してから、
キャンプ場の中をくまなくチェックして回ります。
おとといは目撃談があった。きのうは声を聴いたという人がいた。
それは気のせいかもしれないし、なにかの間違いかもしれないけれど、
なぜ、やまねこには何の手掛かりも見つからないのだろう?

8時ころ、管理人の白井さんが出勤してきて、
たまたま管理棟の近くにいたやまねこを呼び止めました。
「おーい、M旅館の人が猫見たってよお」
「ほんとですか!?どんな猫ですか?」
「そこまでは聞かなかったけどよお。なんでも2,3日前に駐車場で見つけて、
つかまえて街まで連れてって、野良猫がたくさんいるあたりに放してきたらしいんだわ」
M旅館というのは、キャンプ場から1kmほど市街地寄りに下ったあたりに、
3軒かたまっている旅館のうちの1軒です。
2,3日前っていえば、16日か17日か…
メイがいなくなったのが14日の夜だから、
たったそれだけの時間でそこまでの距離を移動するとは、とうてい思えません。
それでも、どんな情報も無下にするわけにはいきませんでした。

「それは、M旅館の何という人ですか?詳しい話聞きたいです」
「あぁ。主人さ。でも話聞きにいかないほうがいいと思うぞ。気難しい人だからな。
でも放した場所はパチンコ屋の裏の、飲食店が並んどるだろ?
そこらあたりだ言うとったな」
「ありがとうございます。見に行ってみます」


小さな町ではありますが、パチンコ屋はきっちりあります。
その裏路地の飲食店街も、すぐにわかりました。
それほど期待はできませんでしたが、ぐるりと歩きまわってみました。
果たして野良猫が数匹、目の前を横切ったり、道端からこちらを見つめていたりしましたが、
もちろんメイではありません。
しょぼしょぼ降り続ける雨の中で、
「この子たちは、ここで冬を越すんだろうか」と考えました。
氷点下10℃を下回るような、北海道の冬。
野良猫はタフで、したたかなんだな。
きっと少しでもあたたかい場所を見つけて、食べるものもなんとか確保するんだろう。
それがメイにできるだろうか?

市街地ならまだ可能性はある。でも、キャンプ場でだったら?
冬には誰もいなくなる。もちろん雪に覆われて、あたかかい場所もない。
食べるものだってない。
どんなにがんばっても10月までに、雪が降るまでには見つけなくては。
それを過ぎたらあきらめるしかなくなってしまう。

それ以前に、26日のLIVEは?
24日朝のフェリーで帰らないと間に合わないし、
それには最悪でも23日にここを出なきゃならない。
今日を入れて、あと3日しかない。
それまでに首尾よくメイを見つけて、保護することはできるだろうか。
それともなんとかちらしを作って配って、
横浜のうちに帰って連絡が来るのを待つ?

自分にできることは何なのか、どれだけのことができるのか、
いろいろなことがぐるぐる頭を回りました。
だめだ。こんなときは、紙に書きだして整理してみよう。
そうしないとこんがらかってしまうだけだ。
キャンプ場の駐車場に戻り、車の窓に当たる雨粒を眺めながら、
今のじぶんにできることを思いつくまま、
箇条書きでノートに書きつけてみるのでした。


「雨の日の猫」

霧降る朝のうす明かりの中
君はどこに目覚めるのだろう
濡れたガラス窓を細く開けて
僕は彼方に耳を澄ます

憩える場所をふとはぐれて
歩みこんだ迷路の森で
世界中に背中を向けて
丸くなってまた目を閉じるの?

 そこで何を見てるんだい?
 木々の間から
 そこは暖かいのかい?
 眠れるかい?

雨は今日も冷たく降り続く
君の匂いを流してゆく
灼けつく夏の陽射し待ちわびて
僕は懲りずに窓を開ける

憩える場所はいつもそこに
たった一枚のドアの向こう
かすかな声が吸い込まれる
静けさの中 ざわめきの中

 そこで何を見てるんだい?
 閉ざされた部屋で
 夜明けをわたる虹が
 見えてるかい?

 そこで何を見てるんだい?
 木々の間から
 そこは暖かいのかい?
 眠れるかい?

 君は何を見てるんだい?
 物憂い瞳で
 光揺れる明日が
 見えてるかい?


できることから、ひとつひとつ実行に移さなくては。
可能性は低いとは思いましたが、
夕方、飲食店街の店が開いたころを見計らって、
何軒かのスナックに寄り、メイの写真を見せて、
「こんな猫がいたら連絡ください」と電話番号を置いてきました。
明日から、もっともっと積極的に動こう。動かなくては。





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昨日3月26日、
一年ぶりのワンマンLIVEも無事終了いたしました。
反省点もたくさんありましたが、荒れ模様のお天気の中、
たくさんのかたに集まっていただき、たくさんの元気と勇気をいただきました。
何度も同じことを言ってしまいますが、
配信を見てくださったかたがたも含め、みなさんに支えられて今のやまねこがいます。
本当にありがとうございました。

あと2週間、4月8日までは配信でアーカイブ視聴が可能です。
配信サイト→https://twitcasting.tv/kakado__/shopcart/134720
配信CHARGEは\1,600です。興味を持ってくださったかたは、ぜひ。


そして次回のLIVEは、4月16日に決まりました。
2022.4.16(Sat.)
at 祖師ヶ谷大蔵ライブカフェエクレルシ→https://cafe-eclaircie.com/

「春が芽吹く頃」
OPEN12:30/START13:00/CHARGE\2,100+1D

久しぶりの昼下がりのブッキングLIVE。やまねこの出演は14:20からの予定です。
配信視聴はこちらのページから→https://www.ecllive.com/live-schedule

少しずつ活動の機会を増やしていけたらと思います。
ぜひ、どこかでお会いできますように。