帰ってきた旅猫・メイの奇跡 その2の4.同じ夜のもうひとつの事件 | うちには、天使がいます。

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ピアノ弾き語り落ちこぼれシンガー・うたうやまねこと、そのパートナーゆかさん、そして寄り目のみけねこメイさんの、命の記録です。

 

帰ってきた旅猫・メイの奇跡 その2の4.同じ夜のもうひとつの事件

・登場人物
<メイ>
2001年の5月にへその緒つきで捨てられていたところをやまねこと出会い、
それからずっといっしょに暮している、寄り目のみけねこ。
車でやまねこと旅をする「旅猫」に育ち、
2004年には西伊豆での1週間のサバイバルから生還しました。
<やまねこ>
ライブハウスでピアノ弾き語りをする歌い手。
2009年当時、ふたたび一時的に失業中。


・前回までのお話
2009年7月。
失業してしまったやまねこは「気分転換」と称して、メイをつれて車で北海道へ。
ゆっくりゆっくり、海岸線をたどりながら、知床のキャンプ場へ到着しました。
久しぶりにテントを張り、メイをテントに残して晩ごはんの準備をして、
テントに戻ると、メイの姿が消えていました。
やまねこはそのまま不安な一夜を過ごします。

(なお、登場人物の名前は、すべて仮名です)



ほとんど眠れない夜が明けました。
メイはけっきょく戻ってこなかった…いや、一度気配を感じてテントから顔を出したとき、
ほんとは戻ってきていたのだろうか。
そのあと聞こえた、なにかが藪に飛び込む音はなんだったのだろう。

7月の知床は、北に寄っていて日が長い上、東に寄っているので、
とにかく日が昇るのが早いです。
テントの中は明るくなっていましたが、
顔を出すと、夜半に降り始めた雨がまだ降り続いていて、
肌寒いくらいの気温でした。
この季節の知床は、晴れて最高気温が20℃を超えることもあれば、
霧が出て10℃前後、という日もあるのです。

時間はまだ5時前でしたが、
どこかざわついた空気が漂っていました。
それは駐車場のほうに、数人の人だかりができているからだ、ということがわかりました。
なにかあったんだろうか?

それは置いておいて、メイが戻ってこなかったことが問題でした。
明るくなったキャンプ場内をぐるっと見渡してみても、
キャンプ場を囲む森林に沿って目を走らせても、
藪のすきまからメイがじっとこちらを見つめているような気はするのですが、
気がするだけで、姿はありません。
それでも念のため、ぐるっと森に沿って一回りしてみました。
やはりメイのいる気配はありません。

どうしたものだろう?そんなに遠くには行っていないはずだけれど。
雨は降り続いていましたが、テントの入口を少し開けて、
ごはんと水もじゅうぶんに用意して、
車のほうに行ってみることにしました。
みちみち炊事棟のまわりも丹念に見てみましたが、やはり見つかりません。
やはりテントに戻ってくる可能性を信じるのがいちばんいいのだろう―
でも、メイがテントから顔を出して、警戒しながら左右を見まわし、
藪に向けてダッシュしていく姿は容易に想像できましたが、
メイがひらけたテントサイトをとことこ歩いてテントまで戻ってくるところは、
どうも想像しづらいような気がしました。
いや、そんなことない。最低でも2,3日のうちにメイは戻ってくるはずさ。
まず、じぶんが落ち着いて待ってなくちゃいけない。
それに、車のほうに来る可能性だってないとは言えないし。

やまねこは駐車場のほうへ降りていきました。。
果たしてメイは車にも戻っていませんでしたが、
駐車場のいちばん奥にできていた人だかりはまだ散っておらず、
何人かが難しい表情をして、話し込んでいるようでした。
少し離れたところから聞いていると、キャンパーだけでなく地元の人も混ざっているようです。
「なにかあったんですか?」
「行き倒れがあったのよ。町の××さん。
ゆうべだいぶ酒飲んでたみたいだけど、今朝がたここに倒れててよ。
つい今さっき救急車で運ばれてったよ」
たぶんやまねこが森に沿ってメイを探していた間のことでしょう。
駐車場のアスファルトには、チョークで人型が描かれていました。

困ったな。
メイがいなくなった話をして「もし猫をみかけたら」とお願いしてまわるつもりだったのに、
どうも切り出しづらい雰囲気になってしまった。
普通に考えたら、猫の行方不明よりこっちのほうがよっぽど大ごとだ。

人だかりの中には管理人さんもいて、
もうひとりキャンパーの人と話をしていました。
その人は管理人さんを「白井さん」と呼び、じぶんは「浅尾さん」と呼ばれていましたが、
ここになじんだ雰囲気や白井さんと話す口調から、
そうとう長いことここに滞在している人だ、ということは想像がつきました。
行き倒れが搬送され、少しずつ手持無沙汰になった人だかりが散りはじめたころ、
白井さんと浅尾さんに声をかけてみました。
「あの、ゆうべ猫が」
「あー、きのう猫つれて来とった人か。どした」
「猫がテントから出てっちゃって、いなくなっちゃったんです」
「おー、そうか、そりゃ大変だな」
「なのでもし見つけたら、あちら(と指さして)のテントにいるので、
知らせていただけたらうれしいのですが」
「わかったわかった。猫見つけたらな。ずっといる連中にも話しとくから」
よかった。管理人さんは協力的だ。

8時ころにはパトカーが来て、現場検証が始まりました。
行き倒れが倒れていたチョークの周りは、黄色いテープで囲われ、
目撃者がいろいろ質問を受け、やまねこも住所などを訊かれました。
キャンプ場への出入りも制限されるようでした。


これから、どうしよう。
天気がよかったら山へ、いまひとつだったら港で釣り、と思っていましたが、
とても遊んでいられ気分ではなく、そもそも出入りも制限されている。
メイはいつテントに帰ってくるかもわからない、車にだって来るかもしれない、
ということで、
車をテントの入口が見える場所に移動し、窓からテントを見張ることにしました。

テントは正面だけではなく、裏側もファスナーが開くようになっていて、
もしメイが正面からテントに入ったとき、裏から逃げられないように、
裏側のファスナーは釣り糸でしばりつけて開かないようにしました。
そして、メイが入りやすく出にくいように、テントの中の配置を工夫して、
正面のファスナーは30cmほど開けておき、車に戻って、ほぼまる一日テントを見ていました。

合間合間に、駐車場に人が出てくると、
「猫がいなくなったんで、見かけたら教えてください。こんな猫です」と、
デジカメのディスプレイでメイの写真を見せて、お願いします。

キャンプ場全体がなんとなく不吉で落ち着かない空気の中、
じりじりと一日が過ぎましたが、
けっきょく、日が傾いてもメイはテントに戻ってくることはありませんでした。
「きっと、雨が降ってるせいだ。うん。メイはどこかで雨宿りしてるだけだ」
きのう思いのほかたくさん張ってあったテントは、今日一日でぐっと減ってしまい、
上のサイトのテントは、ほとんどやまねこのテントだけになりました。



夜はテントに戻って休みました。
SNSには、とりあえず心配をかけないように、
「知床に着きました。やまねこは元気です!」と、ひとこと更新しました。

「信じなくちゃ。2,3日のうちには、ぜったいごはん食べにくる。
西伊豆でだって、そうだったじゃないか」
しかし、一度の経験ですべてを判断するのがどれだけ危険なことか、
このあとやまねこは身をもって思い知らされることになるのです。





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2022年ワンマンLIVEの詳細です。

2022.3.26(Sat.)
at 御茶ノ水KAKADO→http://www.kakado.jp/
「2022うたうやまねこワンマンLIVE Walk Again and Again」
OPEN17:30/START18:00/CHARGE\2,000+1D
(OPEN/START時間は緊急事態宣言等により前倒しになる場合もございます)
配信サイト→https://twitcasting.tv/kakado__/shopcart/134720
配信CHARGEは\1,600です。

しかしその前に!もう1本LIVEが決まりました。
ワンマンの2週間前、3.13(Sun.)
at 祖師ヶ谷大蔵IKEDA→https://ikeda.webnode.jp/
「あなたと歌とお話と」
詳細は未定ですが、14:00からの、午後のLIVEです。
なんでも役者さんが2名、朗読(語り)で出演するのだそうで、
演技は素人のやまねこが語りをするのかどうか?それもまたお楽しみですが
(もちろん歌はうたいます)、
近いうちに詳細も出ると思いますので、お待ちになっててください。

お会いできるのを楽しみにしてますね。