帰ってきた旅猫・メイの奇跡 プロローグの1.祝福されない命 | うちには、天使がいます。

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ピアノ弾き語り落ちこぼれシンガー・うたうやまねこと、そのパートナーゆかさん、そして寄り目のみけねこメイさんの、命の記録です。



うたうやまねこblog.「うちには、天使がいます」
今回からしばらく、ゆかさんの闘病の話はお休みをいただいて、
前回までのエントリで別れを描いた、メイさん
―やまねこと17年いっしょに暮らした仔猫―
の起こした、2度の奇跡について書いていこうと思います。

本題の奇跡のお話に入る前に、
まず何回かにわたって、やまねことメイさんの出会いについて記しておきましょう。
それはずっと昔、ゆかさんと出会うずっと前の2001年の5月から始まります。


メイと出会ったのは、2001年5月1日のことでした。
当時といえば、世間は何にでも「ミレニアム」をつけてはしゃいでいましたが、
バブル経済が崩壊して数年がたち、
少しずつ気だるさ、暗さが忍び寄っているころでした。

やまねこは横浜の少し駅から離れた不便な場所でアパート暮らしをしながら、
フリーで製図の仕事をしていました。
最初のころは途切れることなく依頼があったのですが、
バブル崩壊以降、徐々に依頼が減って、
とくに年度が変わっての4月5月は仕事がなくなってしまうことが多くなり、
ぶらぶらしていてもしかたないので、かといっていつ仕事が入っても対応できるように、
日雇いのバイトに出ていました。
前日の午後に、バイト派遣の会社から電話で工事現場や廃品回収の仕事の打診が入り、
「やる?」と訊かれて「はい」と答えれば翌日集合場所に出かけていき、
日払いで働いて帰ってくる。そしてまた電話を受ける。
そういう生活です。

5月1日は、お休みでした。
曇り空の、少し肌寒い日だったと記憶しています。
なんのためだったのかは忘れましたが、ふらりと外に出ました。
アパートの駐車場で行き止まりになっている路地の、最初の角。
そこの道端に、汚い発泡スチロールの箱がひとつ、置いてありました。
なんの気なしに中をのぞいて見たやまねこの目に飛び込んできたのは、

もぞもぞ動く、4匹の生き物でした。

2匹は、茶色と白のぶち。
もう2匹は、茶色と黒と白が複雑に混ざった三毛(さび三毛)
まだ目も開いておらず、ただ這いまわっています。
「ねこだ。生まれたての」
心臓がばくばくしました。
「いや、はっきりとはわからないけど、たぶんねこに違いない」
小さな耳。しっぽはたけのこのような先細りで、
やまねこの知っている「ねこ」とは、少しフォルムが違うような気もしました。
「どうしよう」
とりあえず軽々しく手を触れるのは、はばかられました。
母猫が迎えにくるかもしれない、と思ったのです。
でもシチュエーション的には、捨てられている。たぶん。
箱に入れられているのだから。

どうすべきなのだろう?
見て見ぬふりをするべき?
アパートはペット禁止。
「いい人に拾ってもらうんだよ」と言って、そっと去るべき?
うちに近すぎる。毎日のようにここを通る。
あした、冷たくなった4匹の死体を見ることになったら?
絶対後悔するでしょう。それにきっと気になって見に来てしまうでしょう。

やまねこは、ねこを飼った経験はありませんでしたが、
もともとねこ好きで、江の島や城ケ島など、野良猫の多いところに行っては、
ながめたりなでたりして、なごんで過ごすことがありました。
「この子たちを見捨てて、今までと同じように野良猫と遊ぶことができるのか?」
「今、じぶんをいちばん必要としている仔猫たちを見捨てて」

「でも、たとえばうちに連れ帰ったとして、
現実的に飼うこと―育てること―生かすこと―ができるのだろうか」
「どうする?」

時代は、
すでにPCはある程度普及して、やまねこもPC(Windows95)を使って仕事をしていましたが、
まだインターネットはダイヤルアップ接続だったと記憶しています。
(わからない人はお父さんお母さんに訊こう)
簡単に説明すると、ネットに接続すれば接続しただけお金がかかる(しかも安くない)
というシステムです。
それにもちろんコンテンツも今ほど充実しておらず、
検索エンジンもまだgoogleがなく、yahoo一択というような時代でした。

「まず、本屋に行こう」
「それで、ねこの飼い方の本を立ち読みしてみよう」
「で、生まれたてのねこの飼い方が書いてあったら買ってこよう」
ひとまず仔猫たちを置いたまま、いちばん近い本屋に向かいました。
「猫の飼い方」
ほんの数ページですが、
母猫が仔猫を生んで育児放棄したとき、または生まれたての仔猫を拾ったとき、
についての記述がありました。
「よし、買う」

そしてその足でホームセンターに向かいました。
本に書いてある通り、ペット用の粉ミルクと哺乳瓶(「小動物用」と書いてあった)を買い、
発泡の箱が置いてあった場所に戻りました。


箱はなくなっていました。

少しほっとしました。
誰かが持っていってくれたんだろう。きっと親切なだれかが。
それでも、どこか胸騒ぎがしたのです。
近くを歩き回ってみました。
路地を少し行くと、車通りの多い道に出ます。
その道の脇に、発砲の箱が置いてあるのが見えました。
誰かが動かしたのか?

近寄ってのぞきこんでみると、
(からっぽであってほしいと思っていました)
そこには1匹だけ、
さび三毛の仔猫が、さっきと同じようにもぞもぞ動き回っていました。
「どうしよう」
夢中でその子を拾い上げました。
「触ってしまった。もう元に戻すわけにはいかない」
仰向けに両手に乗せると、まだへその緒がついているのがわかりました。
なにか見られてはまずいものを持っているように、半分走るようにうちに戻りました。


とりあえず、段ボールにタオルを敷いて、そこにその子を置きました。
すでに夕闇の迫る時間になっていました。

「どうしよう どうしよう」
「拾ってしまった。もう戻せない。責任取らなくてはならない」
何度も何度もそればかりが頭の中を回りました。
「落ち着いて。落ち着いて」

「猫の飼い方」の本を見ながら、
粉ミルクをお湯で溶いてあげてみました。
哺乳瓶を口につけて、少しミルクを出してあげましたが、いやいやをするような様子で、
飲んでくれません。口からこぼれてしまいました。

やはり本だけでは心細いものがありました。
そういえばトリマーをやってる友人がいた。
もちろん犬が専門だけど、動物病院とも関わりがあったはずだ。
さっそく電話してみました。
「生まれたてのねこ拾っちゃったんだけど、どうしたらいいかわかる?」
「そういう子は経験ないからよくわからないけど…
もう時間遅いけど、救急の動物病院もあるからネットで探してみたら?
わたしもあさってお休みだから、見にいくよ」
「ありがとう!さっそく救急病院探して電話してみるね」

貴重なダイヤルアップを使って、
対応してくれる病院を探しあてました。
診察時間は終わっていましたが、
「とりあえずあったかくしてあげて、あした近くの動物病院で診てもらってください」
無償でアドバイスをくれました。
やはり今夜はなんとか乗り切って、
あしたまずは動物病院へ、ということか。
授乳に関するアドバイスももらって、
少しだけ飲んでもらうことができました。
(ほとんどこぼれてしまっているような気もしましたが)

無事に夜を越せるだろうか。
明日の朝、冷たくなっていたら、と思うと、
怖くて写真を撮ることもできませんでした。
(ちなみに当時やまねこはデジカメも携帯も持っておらず、
カメラは巨大な一眼レフだけです)

その間、日雇いの派遣会社からも電話が入りましたが、
「あしたもお休みをください」と断ってしまいました。


電話したり調べものしたり、本を見たりで、
晩ごはんを食べられたのは、0時ころになっていました。

「この子は、棄てられた」
「いらない、と言われたんだ。邪魔だと思われたんだ」
他人事のようには感じられませんでした。
「せめて、せめてじぶんだけは、この子を見捨てたくない」
なんとか、なんとか無事に、
明日の朝を迎えられますように。

祈りながら、眠りにつきました。





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10月のLIVEはなかなか決まらないのですが、
決まり次第、こちらでお知らせしようと思います。
コロナも収束の兆しが見えて、緊急事態宣言も待望の解除、
まだまだ油断はできませんが、またお会いできる日が来ますように。