スーは食材を無駄にしないように使い切るのも上手だったけれど、空き箱などを利用して小物などを整理することも得意だった。スーの料理熱が高まるにつれ、シンクの横に電熱コンロが1つだけしかない形ばかりのキッチンには明らかに不釣り合いな量の調理器具や調味料が増えていくことになった。スーはティッシュペーパーの空き箱などを少し加工して数段重ねの小物入れを作って上手にそれらを管理していた。料理関係以外でも僕が実家から持って帰ってきた大量のボールペンのために筒形のポテトチップスの空箱を適当な長さに切って鉛筆立てを作ったり、勉強机の引き出しの中はチョコレートの空き缶などでうまく仕切りを作って少しずつ整理してくれた。

 書店で僕が買ってきた本にかけてあるブックカバーを見て、それが紙をどのように折って作られているのかを調べると、僕が買ってきた英語の料理本などに新聞の全面広告を使ってブックカバーを作るようになった。スーのブックカバーはファッションブランド、映画、ミュージシャンの新作アルバムなどの広告を本のサイズに合わせて選んであり、贔屓目抜きにセンスの良さを感じさせた。僕が褒めると照れ臭そうに下を向いてはにかんだ笑みを浮かべ、僕が通勤途中に勉強に使う参考書にも同じようにカバーをつけてくれた。

 よく「100均アイテムを使った整理術」といった特集記事を見かけるけれど、スーは100円すらかけずに部屋をきれいに、そして広く使うための工夫を見出していた。もしあの頃SNSが発達していて、こういった工夫を発信していたとしたら、間違いなく彼女はたくさんのフォロワーを集めていたことだろう。

 きちんと学校に通う機会には恵まれてはいなかったようだけれど、本質的に彼女は頭がよかったのだと思う。「一人暮らしだと、自炊をするよりもご飯だけ炊いておいて、おかずはスーパーでお総菜を買ってきたほうが安いからね」と家を出るときに母親に何度か言われたことを覚えている。でもスーと一緒にいた時期、2人分の食事にかかる金額は、僕が1人で暮らしていたときよりも少ない額で収まっていた。一緒に借りてきた映画を観るときにポテトチップスを食べることはあったけれど、それ以外でスナック菓子を買うことはほとんどなくなった。それまで週に数個は食べていたカップ麺を一切買わなくなったことと関係していると個人的に思っているのだけれど、突発的に出現して僕を悩ませていたニキビもできなくなった。

 彼女のおかげで改善できたものは食生活だけではない。彼女は僕の身だしなみにも気を遣ってくれた。それまで朝起きてから適当に寝癖を直す程度だった髪型も、ムースをつけてセットしてくれた。ファストファッションや紳士服のチェーン店のチラシが新聞に入っていると、赤いペンで丸をつけ、僕に買うように勧めた。

 「1年履くことができる靴を2足買っておくと、3年履くことができると言われています」とスーは言い、「長い目で見ると、お金を節約することできるのです」と教えてくれた。

 僕は彼女が来るまでは無地の白いワイシャツしか身につけていなかったけれど、細いストライプのもの、薄いブルーのものなどがクローゼットに増えていった。僕は毎朝、彼女のコーディネートによるスーツ、シャツ、ネクタイを身につけて部屋を出た。

 「彼女ができたんじゃない?」と女子社員たちが噂をしていると耳にするくらいには僕の雰囲気は変わっていたのだと思う。

 ワイシャツやスーツが古くなって買い替える時期が来ると、僕はスーが選んでくれたものと同じような色や柄のものを買い替えるようにしている。家を出る前に髪もワックスをつけて整えるようにしているけれど、髪型だけはあれから何年経ってもスーがやってくれていたようには上手く仕上げることができないままだ。