僕たちの共同生活が始まって5日ほど経った頃だと思う。僕たちが夕食を終えてくつろいでいると、部屋にインターフォンの音が響いた。ピンポーンという電気音が部屋に響いた瞬間、正面に座っていた彼女はびくっと身体を震わせ、顔は強張り、それから怯えた表情に変わった。

ごく稀に親戚から宅急便で野菜などが届くこともあったし、宗教などの勧誘の訪問も珍しいことではなかったので、僕は特に何も思わなかったけれど、彼女の反応を見て不安になった。万一彼女がここに隠れているという情報がどこかから漏れ、連れ戻しに来たのだとしたらどうしようという考えが初めて僕の頭に浮かんだ。

 彼女がここにいることがばれてしまったのかもしれない。

僕たちがお互いを見つめあったまま動かずにいると、もう一度インターフォンの音が響いた。僕は意を決して通話のボタンを押した。

 「宅急便です」と若干のノイズとともにくぐもった声が聞こえてきた。

 僕はほっとして玄関のオートロックを解除し、彼女に大丈夫と身振りで示した。

印鑑を持って玄関に向かいかけたが、そこでふと、もしも本当は宅配業者ではなかったらどうしようという考えが頭をよぎった。

 僕は彼女にこたつに潜って隠れるように言い、それから念のため部屋のドアも閉めておそるおそるドアのピンホールを覗いた。

 薄暗い廊下には重そうな荷物を抱えた配達員が立っていた。僕は固まっていた全身の筋肉が急にほぐれていくような感覚に包まれながらドアを開けて荷物を受け取った。

 ドアを閉めると同時に僕はその場にへなへなと崩れ落ちた。すがるようにして鍵をかけ、這って部屋へと戻り、彼女にこたつから出ても大丈夫だと伝えた。彼女も同じように緊張した顔でこたつから出てきた。僕は玄関にある荷物を指さすと彼女も状況を理解した。僕たちは顔を見合わせて同時に大きくふうっと息を吐いた。