実家の整理を終え、一人暮らしをしているアパートに戻ると留守番電話に3件のメッセージが入っていた。1件は専門学校から、1件は葬儀を取り仕切ってくれた父方の親戚、もう1件は母の姉からだった。専門学校からのメッセージはお悔やみと事務的な伝達事項、親戚たちの伝言は両方とも僕の住んでいる町まで出向くので、一度会って話をしたいということだった。

 僕はまず父方の親戚に電話をかけたが留守番電話につながったので、メッセージを聞いた旨を伝言として残した。続いて母の姉に電話をかけ、葬儀を手伝ってもらったことなどのお礼を言うと、叔母はひとしきりこちらの様子を尋ね、当たり障りのないことをしばらく話した。僕が用件について尋ねると叔母は電話ではなく直接会って話をしたいと言い、その週末にこちらまで出てくることになった。

 叔母との電話を切ってしばらくすると、父方の親戚から電話がかかってきた。伯父も叔母と同じような話をしていたが、僕が叔母からも電話があったことを何気なく口にすると、急に様子が変わった。

 「由美さんは何て言ってた?」という質問に詳しいことは会って話したいと言っていたことを告げると、伯父は理由を適当に作って会うのをやめたほうがいいと言った。

 「保険金が入ったら金を貸してくれって話じゃろう」

 「あそこは金持ちじゃないの?」と僕は尋ねた。母の実家は地主で、母は小さな頃から何不自由なく育てられてきたはずだった。

 「あいつが財産を全部食いつぶした」と伯父は吐き捨てるように言った。伯父の話をまとめると、叔母は結婚相手とともに事業を起こしたが失敗し、多額の借金はすべて祖父が立て替えることとなった。事業をたたんだ後は離婚して実家に戻ってきたが、祖父の営む事業の運営にも口を出し始め、様々な分野に手を出しては失敗を繰り返しているということだった。

 「戻ってきた後も結構な借金を作って生活にも苦労しとるらしい。もうお義父さんの預貯金はほとんど食いつぶしたみたいじゃ。山と畑は残っとるが、あんな田舎じゃあそうそう買い手もつかん。もし売れてもいくらにもならんし、多少の金が入ったらまたすぐに使い果たしてしまうじゃろう」

 伯父はしばらく電話の向こうで伯母に簡単に事情を説明していた。受話器を手で覆っているようだったが、伯母が腹立たし気な口調で何かを言っているのが聞き取れた。僕と会話に戻ってきた伯父は叔母との約束の日時を尋ね、自分も同席すると主張した。僕は自分で断れるからと伯父に言ったが、伯母から強く言われたのだろう、伯父は聞き入れようとはしなかった。結局、その週の土曜日の午後、僕のアパートの近くのファミリーレストランで伯父を交えて叔母と話をすることになった。

 「わしが行くっていうことは由美さんには言うなよ」と伯父は念を押して電話を切った。

伯父が僕のことを心配して言ってくれているのか、それとも没落した叔母を見たいだけなのか僕にはよくわからなかった。