月曜日の朝、スーツに着替えた僕を彼女は玄関まで見送ってくれた。僕は駅に歩きながら、もっとスムースに彼女とコミュニュケーションをとる方法を考えていた。前の晩までに会話をする方法として、

 

1.僕が彼女の母国語を学ぶ。

2.彼女が日本語を学ぶ。

3.僕と彼女が共通の言語を学ぶ。

 

 頭に浮かんだのはこの3つだけで、それ以外には思いつかなかった。

1については彼女が話す言葉が何語なのかがわからないし、わかったとしても参考書などが売っているとも思えなかったので却下した。2についても彼女の母国語で書かれた日本語の教科書を入手する手立てなど考えられないし、彼女が接触する唯一の人間である僕には言語を教えるスキルなどは存在しない。よってこれも即座に却下となり、結局消去法で3が残った。英語には高校卒業以来触れていなかったし、中学、高校とクラスの平均点が取れれば御の字だったけれど、他の二つの選択肢に比べれば圧倒的にハードルは低いように思われた。

幸運なことに会社と会社の最寄駅との間に、大規模な中古書店がオープンしたばかりだったので、僕は仕事帰りに寄ってみた。資格、参考書のコーナーには思っていたよりもたくさんの英語学習の本が並んでいた。英会話学習の本は僕には全く関係ない「海外旅行で役立つフレーズ」といったタイトルのものが多かったけれど、僕は30分くらいかけて自分のために大人向けの英会話の本を2冊、彼女のために英検4級と5級の絵本のような単語集を1冊ずつ選んだ。彼女がアルファベットを読めなかったとしても、英検の単語集にはCDが付いているので耳から覚えることができるはずだった。

駅での10分ほどの待ち時間と電車に乗っている約20分間、僕は買ってきたばかりの英会話のテキストを読んでみた。書いてあることは思っていたよりも理解しやすく、僕にも無理なく続けられそうだった。通勤電車での勉強は今でも続いている習慣の一つになっている。

電車を降りた後、僕はスーのための買い物についての計画を練り直しながらアパートまでの道のりを歩いた。