僕は夕食を買いながら、当座彼女に必要なものを考えた。彼女を探している誰かがこの部屋に押し入ってくるという事態を除けば、彼女が外出をする機会はほとんどないだろうから、外出をするための洋服は必要ない。よって別の僕のスウェットやTシャツを着続けていてもさして問題はないのだけれど、着替えも必要になるだろうと考えて、彼女用のスウェットとシャツを買って帰ることにした。スーパーの生活用品においてあるような商品であれば、男性用、女性用の区別はほとんど気にせず、サイズで選ぶことができた。僕は買い物かごにスウェット上下を2セットと3足500円の特売の靴下を入れたところで、立ち止まった。

 下着はどうすればいいのだろう?

 おそらくは衣類の中で最も替えることが必要なものであることは間違いないとは思うけれど、彼女くらいの年齢の女の子がどういうお店でどのような下着を購入しているのか僕には全く見当がつかなかった。見当がついたとしても、彼女の代わりに下着を買いに行くということは、僕にとっては、古典の授業で習ったかぐや姫が求婚者たちに出した難題に匹敵する大問題だった。

 僕が買い物かごを持って立っている靴下のコーナーの横に男性用下着、そして女性用の下着も並んではいたが、適当なものを買い物かごに加える勇気はとてもなかった。第一どのサイズを買えばよいのかもわからない。

 僕はしばらく店内をうろうろしながら考えたけれど、彼女を買い物に連れてくるしか方法はないという結論以外を導き出せなかった。

 僕は自分の顔すら半分くらい隠れてしまうサイズのマスクを買い、急いで部屋へと戻った。約束したとおり、カーテンの閉められた窓に灯りはついていなかった。

 僕が靴を脱いで部屋に入ると、彼女はすでにこたつの上に茶碗やお皿を並べて待っていた。

 米が炊き上がると、僕たちは小さな食器棚から茶碗や皿を並べ、電子レンジで温めた揚げ出し豆腐と白身魚のフライ、サラダを盛りつけた。いつもはプラスティックのパックのラップを破って、容器から直接食べていたのだけれど、こうしてみるとこれまでに比べて少し人間らしい生活に近づいた気がした。

 彼女は箸を上手に使って一口一口じっくり味わいながら食べていた。食事が終わり、僕が食器を流しにもっていこうとすると、彼女は急いで立ち上がって僕を制した。

 せめてこれくらいはさせてくれ、ということなのだろう。彼女はワンルームの部屋の玄関に通じる通路の横にある申し訳程度のシンクで食器を洗い始めた。僕はそんな彼女を見ながら、彼女が生活していく上で必要なものを再度考えていた。