僕は彼女にバスタオルを渡してユニットバスに連れて行き、予めお湯を丁度良い温度に調節して彼女に温度を確かめさせた。彼女に体を洗うように言うと、急いで外に出た。そんな僕を見て彼女が少し微笑んだ気がした。

 シャワーの流れる音を聞きながら、僕は古いスウェットの上下とTシャツを用意して、ユニットバスの扉をノックした後、腕だけを中に入れて彼女に差し出した。彼女の腕が洋服をつかんだ感触を確認して手を離すと、中から「サンキュー」という小さな声が聞こえた。

 だぶだぶのスウェットを着た彼女が部屋に戻ってくると、僕は彼女にドライヤーを手渡した。改めて見ると彼女は目鼻立ちの整った美少女だった。彼女が髪を乾かしている間、僕は何を彼女に尋ねるべきかを頭の中で整理しようと努めた。聞きたいことはたくさんあったが、言葉が通じないという問題をどうやってクリアすればよいのかわからなかった。

 とりあえず僕は自分を指さし、「タカシ」と名乗った。彼女は独特のイントネーションで「タカシ」と反復した後、自分を指さして「スー」と言った。

 自己紹介は済んだものの、それからは何を話せばいいのか、どうすればよいのかわからず、僕たちの間に沈黙が流れた。今日は彼女も疲れているだろうから眠らせたほうがいい、という結論を半ば強引に僕は導き出し、こたつを部屋の脇に寄せ、布団を2組敷いた。できるだけ間を開けたいところだったが、いくら家具がほとんどないとはいえ、狭いワンルームの部屋ではいくぶん布団の両端が重なってしまうことは避けられなかった。僕は彼女に左側の布団を指さし、自分は右側の布団のできる限り壁側にもぐりこんだ。彼女は疲れていたのだろう、布団に入るとすぐに穏やかな寝息が聞こえてきた。僕は一人暮らしを始めたとき、友達が来たときに困ると母親が言い張って置いていったお客さん用の布団が初めて役に立ったことをぼんやり考えていた。