1996年12月22

 この頃の僕の生活は、今と同じく毎日が同じことの繰り返しだ。社会人1年目で朝起きて会社に行き、仕事をして帰ってくる。帰りがけにスーパーでその日の夕食を買い、テレビを見ながら食べて適当な時間になったら眠る。週末にはビデオを借りてきて(当時はまだレンタルDVDではなかった)ポテトチップスをつまみ、コーラを飲みながら観る。洒落た文章を書く小説家なら、「過去の1日を切り取って見せられて、『この日は1996年の12月9日です』と言われれば、何の疑いもなく信じるだろう」といった風に文章にするのかもしれない。あの頃は自分だけが特殊で、退屈な生活を送っているものだと考えていたけれど、最近になって誰しも多かれ少なかれ同じようなものなのではないかと思うようになった。

 その日は20年以上時が流れた今日と同じく会社の忘年会だった。会社の中で必要最低限の会話しかせず、仲の良い同僚や可愛がってくれる上司というものがいなかった僕は必然的に誰からも二次会に誘われることなく、儀礼的に参加した一次会が終わると家路についた。

 帰りがけにレンタルビデオ店で週末に見るための海外ドラマを5本セットで借り、スーパーに寄ってポテトチップスとコーラ、それから次の日の朝食と昼食代わりの菓子パンとカップ麺を買ってアパートに戻ると、集合ポストの脇に彼女はいた。

 12月だというのに彼女は薄手のTシャツにショートパンツ、裸足という出で立ちで、むき出しになっている腕や足、それから顔がところどころ土で汚れていた。年齢は十代後半といったところだろうか。アパートのエントランスの黄色が買った灯かりに照らし出された彼女は東南アジア系のはっきりとした顔立ちをしていた。

 「ヘルプ」

 彼女は小さな声でそう言った。寒さからか恐怖からか、あるいはその両方からかがたがた震えていた。

 「警察を呼びましょうか?」と僕は言った。日本語がわからない様子なので、「ポリス?」と聞き直すと、彼女は激しく首を振った。